【知っトク】必要がイノベーションを生み出すジュガードという思考法

インドにはJugaad(ジュガード)という言葉がある。カタカナ表記ならジュガールと発音するのが正しいのかもしれない。独創的な方法による急場しのぎというマイナスのイメージもある。規則を上手に解釈して弥縫する。解決に役立つものはすべて使って障害を除去する。乏しい手材料だけで対応するため創造性があるとプラスにも用いられる。
 無駄な工程をなくす考えは経営哲学としても注目されている。インドなど南アジアが中心。アメリカだとDIY。イギリスのハッキング。中国の自主創新。ドイツの Trick 17。ブラジルの gambiarra。フランスの systeme D。
 フランスのLe système Dは「要領のいいやり方」を意味する。se débrouiller「うまくいかない状況を頭を使って切り抜ける」という動詞。D débrouiller のD。
 インドは資源の不足があるからこれを克服するための知恵が必要になる。一見解決不能な問題を解決するために代替措置を即興に生み出す。臨時的な策。インドの企業は新しい技術と先鋭的なビジネスモデルを考え出すのに長けている。サプライチェーンも人材活用も新たなビジネスを創造し解決する。インド人はソリューションを大事にする。解決策が見つからなければただの無駄話、問題の共有のみになる。
 インドが抱える問題は多い。貧困、大気汚染、停電、交通渋滞。問題が多ければその解決に伸びしろと大きなビジネスチャンスが埋もれている。課題がなければ考えるという作業は生まれない。課題が大きすぎれば、諦めるか、小さく見える角度を捜すかだ。ものづくりの日本と共通点は多かったはずだ。ものを作れないときに日本人は道具を作った。角度を変えたわけだ。しかしそれは少し昔のことのようにも思える。課題を解決する習慣を持った日本人が少ない世代がインドの問題を解決することができるのか。日本から進出する企業関係者の多くは、貧困、大気汚染、停電、交通渋滞などの課題のソリューションにビジネスチャンスを感じる。それは大きな問いかけだが、いきなり正解を求めるために、途中で挫折する。課題が多すぎて迷路に迷い込む。そしてインドはまだ駄目だとの結論に至る。
 インドでは、トイレを作って女性の力を生かしたり、暑さを太陽光発電に変えたり、貧困層を成長のエネルギーにしたりという発想の転換がある。先進国が導入した仕組みや技術をそのまま真似をするのではない。イノベーションが必要だ。インドのジュガードというイノベーションを創り出す土壌となる考え方は革新的な問題解決の方法だ。想像力や知恵から生まれる即席の解決方法。これがあればという過程や、これがなければという期待で問題を先延ばしにするのではなく。有るもので勝負する。現地の課題やニーズを深堀りして既存の考え方にとらわれない解決方法をひねり出す。 
 「インド人コンサルタントが教えるインドビジネスのルール」 (中経出版)によるとジュガードは「1980年代にパンジャーブ州の村人達によって考案された自主制作の車に由来し」とのこと。突飛なアイデアと限られた資源の中での工夫という両面がある。電気の要らない水冷式の冷蔵庫、足漕ぎの洗濯機などが有名。ジュガードは6つの要素で構成されている。①逆境の中でチャンスを探す②少ない投資で最大の効果をえる③柔軟に考え行動する④シンプルにする⑤主流ではないターゲット層⑥直観に従う。
 日本ならば、満員電車の中をどのように過ごすかでジャガードが生かされるように思う。課題が明確で切迫している。使えるものは限られ、即座に使えなければ意味がない。我慢するしかないという固定的な考えに縛られず、周囲の人に相談することから始めるのかもしれない。電車に乗らない選択肢もある。
 NHKで小型の冷蔵庫を紹介したことがある。小さな容量で動く安い簡易型冷蔵庫は「チョットクール」とう名前。野菜が腐らないように少しの時間だけ冷やす。冷やす必要のないものまで冷蔵庫に詰めて大きな倉庫にしたりしない。ちょっとだけ冷やすことで事は足りる。あるもので課題は解決される。大手メーカーが発売した貧困層向けの冷蔵庫は、電力に乏しい農村部向けの生活を向上させた。必要は発明の母という。ただ、ちょっと待て。この冷蔵庫、実は日本人の発案だ。筑波大学名誉教授の司馬正次さんの指導と助言で作られた。これを作ったゴドレジの代表にもお目にかかったことがある。インドを代表する財閥は商機に鋭い論理的な思考法を持っていると感じた。
 日本の技術力をインドに当てはめるとう考え方は生産的ではない。必要が発明を生んだのだから、もともと必要の中身が違うところには、あてはまらない。必要の中身を一から考えたほうが結論に至る道は近い。近いというより、確実だ。

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