インドで農民の大規模デモが起きている5つの理由【野党、効率、干ばつ、融資、自立、モディ政権の儲かる農業政策は実現するのか】

ニューデリーで2020年11月27日、農業改革に反発する農家の人らがデモ行進し、警察が催涙ガスや放水砲を使用。警察と農家の衝突は、前の日に続き2日目で農家の人らは、農業改革に不信感をあらわにしている。インドでは、農作物が州管轄下の市場で保証価格にて販売されていたが、今年可決された法案で農家が相手を問わず自由な価格で販売できるようになった。モディ首相はこの法案について、多くの農家に力を与える「農業部門の全面的な変化」で投資や近代化を促進するとしているが、●①●野党の国民会議派(INC)は民間企業が自由に農家を搾取できるようになると反発している。
 農業改革に反対する数千人規模の農民は11月28日も首都ニューデリーに集結した。農民のデモ隊は警察と衝突。催涙ガスや放水銃を使用する警察がデモ隊を押し返した。緊張が続いている。2カ月、パンジャブ州とハリヤナ州を結ぶ主要道路で、農業改革法案の成立に反発する農民のバリケード。首都周辺には数千人が集結している。

 農業は国内総生産の3分の1を占めていたが、現在では●②効率●15%、年間2.9兆ドルまで落ち込んでいる。
 インドの農家は貧困に喘ぎ成長から取り残されてきた。一方で人口の約6割を占める農民は民主主義の国インドでは政権の行方を左右する最も重要な勢力だ。1947年の独立後に食料不足に直面したインドは「緑の革命」で農業大国となったが、農家以外への人材の流出もあり労働生産性は伸び悩んできた。大半は零細・小規模経営で機械化などが進まず、生産物の流通も非近代的。干ばつや台風などの自然環境に左右されやすい脆弱性がある。 モディ政権はインターネットを活用した農産物市場の導入でサプライチェーンの効率化を図った。しかし農業改革は時間がかかる。補助金漬けの農業政策に頼らざるをえない状況に再び陥った。

 THE TIMES OF INDIAの世論調査によると、前回の総選挙で問われたモディ政権の課題は「雇用創出2」が40%と最大で、次に「農民の困窮」が22%、インド北部アヨーディヤにおけるヒンドゥー教の「寺院建設の遅れ」が10%、「物品サービス税(GST)の実施」が5%だった。農家は貧困、若者は就職難にあえぐ。成長から取り残された人々。
 インドは1億7,972万ha(世界第7位)の広大な農地を有する。1947年の独立後、食糧生産が停滞して穀物の輸入大国となった。1960年代の食糧危機をきっかけに「緑の革命」。米・小麦の高収量品種の普及や化学肥料や農薬の投入、管井戸灌漑の導入が三本柱。1970年代に国内自給を達成。1990年代には穀物の純輸出国に転換。
 インドの穀物の単位面積当たりの収量は3.2トン/ヘクタール(2017年)と、世界平均の4.1トン/ヘクタールを下回る。農地面積から永年作物地、永年採草・放牧地を除いた耕地面積では1億5,646万haの世界1位だが、サービス業と鉱工業が1991年の経済自由化で成長したのに対し農業は成長率格差が拡大している。農業のGDPに占める割合は1950年代の60%程度から現在16%程度まで縮小した。
 生活が苦しい農民の間では、種子や肥料、農薬、燃料等の購入で借金がかさみ、水不足などで収穫が落ち込むと返済できずに自殺に追い込まれるケースも多く社会問題化している。インドでは、1995年から2015年の20年間で約30万人の農民が自殺している。自殺の主因としては。先進国で共通して見られる健康問題は比較的少なく、「破産または債務」が38.7%、「農業関連」19.5%など経済問題が多い。これはインドの衝撃でも紹介した。
 独立後、政府は農地改革を実施して大規模な土地の所有権を分割し、小作農に分配することで不平等を解消させようとした。近年では雇用不足や乳児死亡率の低下等を背景とする農地分割相続が増加した結果、農地は細分化されていった。ニッセイ基礎研究所のリポートによると、現在、農業経営体1件あたりの農地面積は全国平均で1.08ha(2015年度)しかなく、日本の2.98ha(2018年)さえも下回っている。零細農家が多く、効率的な大規模経営ができない。
 次の作付けに必要な種子や肥料、家畜の餌などを購入するために土地を担保にローンを組む農家は多い。負債の約4割をフォーマルな金融機関と比べて金利の高い貸金業者からの借入が占めており過大な返済負担が農家の生活を圧迫している。灌漑が整備されている地域では、貯水意識が欠如しているために過剰に地下水を汲み上げた結果、地下水位が低下し、枯渇する恐れが高まってきているほか、塩害などの土壌汚染も広がってきている。
 モディ首相はグジャラート州首相時代、安定した電力を農家に供給すると共に、広範囲な流域開発による治水などを通じてグジャラート州の農業生産を向上させた実績がある。インド農業が抱える構造的な問題の解消に取り組んできた。2016年4月に開始した農産物卸売りポータルサイト国営電子農業市場(eNAM)。eNAMは585箇所以上の農産物卸売市場とインターネットで繋がっている。青果物をはじめ、穀物や豆類、スパイス類など124品目の取引ができる。買い手が全国規模に広がることで現地市場に比べて貯蔵・輸送コストがかさむが、低い価格で落札される、買いたたかれる可能性が低くなる。複数の仲買人を介する必要がなくなるために、農家にとってムダな仲介コストが大きく削減される。農家は実勢価格を確認できる。透明性の高い農産物市場の取引が行われる。2018年度予算で全国に22,000存在する農村のハット(定期市)をアップグレードしてeNAMと繋がった農村農業市場(Gramin Agriculture Markets:GrAMs)を設立することを公表した。農民が直接野菜を消費者に販売することができ仲介コストをゼロにすることができる。干ばつや洪水による作物被害リスクに対して、政府は農業保険を普及させ自然災害や疫病から農家を守るため2016年2月には首相作物保険プログラム(Pradhan Mantri Fasal Bima Yojana : PMFBY)も開始した。水資源の有効利用に向けてはマイクロ灌漑の普及を促進すべく、2016年に首相農業灌漑プログラムPradhan Mantri Krishi Sinchai Yajana(PMKSY)に着手した。スプリンクラーや点滴灌漑の導入を支援している。モディ政権期(2014-18年)におけるマイクロ灌漑は287万ヘクタールとなり、前政権(2010-14年)の230万ヘクタールから24%増加した。
 モディ政権は発足早々に生じた●③●2年連続の干ばつと政策要因による景気減速があり、農家にとって厳しい環境が続いた。政府は選挙公約の最低支持価格(MSP)の大幅引上げを遅らせるなど、各種補助金や給与・年金などが含まれる経常支出を抑制。貧困対策の柱であるマハトマ・ガンジー国家農村雇用保証計画(Mahatma Gandhi National Rural Employment Guarantee Scheme: MGNREGS)の予算についても前政権と比べて抑制されてきた。さらに借金の帳消しを求める農民のデモが全国各地で相次いだが、全国規模で農業ローンの返済免除を表明することはなかった。こうして農民の間で「中央政府は農民の困窮を和らげる方策を持ちながらも可能な限りの対応をしなかった」という批判が広がっていった。成長の恩恵を受けられていないということで選挙の直前には再選が無理かと思われるような地方選挙での敗北も続いた。

 特に深刻なのが自殺。2018年7月には、インド西部の州では3か月で農民600人以上自殺 した。不作が経済的に困窮に拍車をかけた。マハラシュトラ州のヤバトマルで、猛暑で水危機も続いた。干ばつや不作、不十分なインフラ、農産物の価格の安さなどから厳しい状況が続きマハラシュトラ州の農家の大きな打撃となった。州政府の先週の発表でこの年、3月から5月までに639人の農民が自殺。1日当たり平均7人。野党側は、モディ首相の人民党(BJP)がマハラシュトラ州と国政の両方で権力を握った2014年以降、州内で約1万3000人を超える農民が自殺したと主張。政府の統計では、2013年以来、農民の自殺者は全国で年間1万3000人。大半は、不作により民間業者からの●④●高金利の融資を返済できなくなったことを苦にしたものとされる。
 国内随一の農業生産州であるマハラシュトラ州政府は2019年12月、農家1軒当たり最大20万ルピー(約30万円)の債務を免除する方針を明らかにした。豆類や砂糖などの生産が盛んだが、18年の干ばつと19年の洪水により、多くの農民が過重債務に追い込まれていた。同州は17年にも公費を投入し890万人の農民を救済している。
 農民の借金苦は全国的な社会課題だ。インドの労働者の40%以上が農業に携わるが、16年には1万1379人の農民が自殺した。農業債務免除制度は、04年に国民会議派政権が開始した。当時野党だったインド人民党(BJP)は反対していたが、14年に政権を奪還すると、18年までに総額1兆ルピー(約1・5兆円)超の救済を、州政府とともに11州で実施した。
 2020年9月27日、コビンド大統領が上下両院を通過した農業関連の3法案を承認。同日施行された「2020年農産物流通促進法」など「新農業法」は、ナレンドラ・モディ政権による本格的な農業改革の第1弾。農産物流通促進法によって、これまで「マンディ」と呼ばれる地域ごとの公設市場に農作物を販売することが義務付けられていたものが自由に作物を販売することが可能となった。中間搾取を排除し、農民が大手スーパーや食品メーカーなどの民間企業と直接交渉し自由に販売することが可能になった。優良農家と食品メーカーの間で行われている契約栽培が全国的に拡大する。選べる時代は競争の時代でもある。 パンジャブ州、ハリヤナ州、中部マドヤプラデシュ州など伝統的な農業先進州では買い手が「インド食糧公社(FCI)」など公的機関が中心で搾取もなく、供給も安定しているので変化を望まない農民も多い。
 保護されてきたインドの農業だが産業として●⑤●自立ができていない。農業省によると、農家の約85%が耕地面積2ヘクタール以下の小規模経営。農家の平均耕地面積は分割相続によって、1970年度から2015年度にかけて約2.3ヘクタールから1.1ヘクタールへと半減。経営規模の小ささ栽培技術の不足で低生産性や低品質。
 遺伝子組み換え種子の導入が成功したコットンをはじめ、バナナやミルク(水牛の乳を含む)、オクラの生産量は世界一、サトウキビやコメの生産量も世界第2位だ。潜在力も秘めている。買い上げ制度で生き延びてきた小規模農家の穀物や豆類から付加価値の高い野菜・果実や畜産に転換が実現するのか。
 インドの農業自殺者を救う農作物マーケットプレイス「Kisan Network」が注目されている。サプライチェーン問題を解決しようと生まれた農産物のマーケットプレイス「Kisan Network」。地方の農家と都市部のレストランや食料品メーカーなどの購入者を直接つなぐ。サービス内容は非常にシンプル。農家はKisan Network上に農産物の写真をアップロードし、希望価格や今後の生産予定時期などの情報を記入する。購入者は希望の商品を選んで注文。農家と購入者をマッチングし商品の選別、等級付け、配送、決済までをすべて行う。8%以下の手数料は既存の中間業者の手数料が11%以上より安い。
 インドのインターネットユーザー数は2006年には3000万人前後であったが、2016年現在、4億人を突破。インドの農業を効率化しようとするITベンチャーが増えている。日本も無関係ではない。
 インドの農民は政権を覆す力があることを忘れてはならない。

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