占星術でコロナを”予言”したインドの少年の新しい消息が見つからない【不安の時代に高まる占いへの関心】

当たるも八卦、当たらぬも八卦という。占いには当たることもあれば当たらないこともある。星占いが人気らしい。八卦は古代中国から伝わるにおける8つの基本図像。伏羲が天地自然に象って作ったという伝説がある。卦の形はさまざまな事物事象を表しているとされる。
 どうしたらよいか分からないことが、日々の暮らしの中で次から次に起こるようになった。一体、いつまで続くのか。以前の通りに戻るのか。メディアに流れる情報は正しいのか。コロナ禍が長引くと出口を見つけたくなる。「占いは予測不能な人間の生の謎に対して日常的な秩序を越えた他者を設定しそれまで生に与えられていた意味をいったん宙吊りにさせて新たに語りなおす」。『夢とミメーシスの人類学:インドを生き抜く商業移動民ヴァギリ』の著者岩谷彩子氏は「技芸」だとする。相談者の人生の別の意味が、物品と語りを用いて編みなおされていく。

 ユーチューブでコロナを”予言”したとして話題になったアビギャ・アナンドのその後の消息がつかめない。2020年12月に何かが起きるといっていたようだが、まだ結論は出ていないのか。
 一流の星占い師とされるスーザン・ミラー。「2020年は素晴らしい年になる。繁栄の年になる」と予見した。「今年の天空の寵児はやぎ座。かに座はおそらく結婚相手が見つかり、てんびん座は不動産で成功する。おうし座は海外旅行の日程がぎっしり入るだろう」。当たらぬも八卦のほうだったため批判があつまった。星占い師や信奉者は日々のできごとが天空の物体や惑星、太陽の動きとその位置関係に影響されると信じている。科学はこれを否定する。

 不確実性や日常生活での不安を星占いは解決する手助けになるという考え方もある。典型的なパターンを明示して心に安らぎを与えることができる。だから技芸なのかもしれない。人々はすでに感じていたことを言葉で表し背中を押してもらいたいと願っている。
 カトリックがその宗教的支配力を失速させていくのに反比例して、科学として神学からの独立性を獲得していった天文学は観測技術の発達にともない目覚ましい発達を遂げた。地動説をとなえたニコラウス・コペルニクス(1473~1543年)。膨大な天文観測記録を残したティコ・ブラーエ(1548~1601年)。そして、惑星の公転軌道が楕円であることを証明し、地動説を完成させたヨハネス・ケプラー(1571~1630年)がいた。当時はまだ占星術を副業にする天文学者が多く天文学と占星術は完全に分離していなかった。三人とも占星術師でもあった。天文学の研究費をかせぐために占星術。
 ケプラーはこう書き記している。「愚かな娘である占星術は、一般では評判のよろしくない職業に従事し、その利益によって、賢いが貧しい母である天文学を養っている」。ケプラーは、宇宙秩序の根底にある「数の法則」に沿って惑星たちが音楽を奏でているとする「天球音楽論」を元に占星術を数学的に純化しようとした。ケプラー自身が惑星に神秘を感じていた。太陽系宇宙の背景に存在する整数比の秩序。理論を否定するエビデンスがなければ仮説は仮説として残る。
 ケプラーは1571年未熟児として生まれたとされている。ヨーロッパでは宗教改革の嵐。多くがカトリックの町でケプラー家はプロテスタント。ケプラーは子供のころの病気がもとで目を悪くしたという。星が見えない。ケプラーはルター派の牧師になるための上級学校に進む。コペルニクスの地動説を知り牧師にはならず数学&天文学の教員になる。ケプラーが作った1595年の占星暦は、寒波の襲来とウィーン南部へのトルコ軍の襲来を当てたので評判となった。著書「宇宙の神秘」。惑星が5つしかないのは正多面体が5つしかないから。(水星、金星、火星、木星、土星)(正四面体、正六面体(立方体)、正八面体、正十二面体、正二十面体)。各惑星の軌道は正多面体に支えられている。
 ケプラーはとくに火星を研究した。ケプラーの第1法則(楕円軌道の法則)。1605年。第2法則(面積速度一定の法則)。「新天文学」出版。プラハに天然痘がはやり、妻と長男を失う(1610年)。「ワイン酒樽の容積」(1615年)は今の積分。1618年ケプラーの第三法則(調和の法則)。惑星の公転速度が太陽から遠くなるほど遅い。太陽が惑星に力を及ぼし動かしていると考えた。皇帝軍総司令官ヴァレンシュタインはケプラーを占星術者として期待。占星術と天文学は不可分のものであった。星占いで死期を悟ったケプラーは大変に落ち込んでいたという。実際、途中の宿でケプラーは死んでしまうのだ(1630年、ケプラー59歳)。ケプラーの墓は戦乱の中で破壊され、所在がわかっていない。
 「おみくじ」と「占い」は似ている。おみくじは自分の願いが叶うかどうかをみる。
 歴史家のベンソンボブリックの著書「運命の空」。占星術の中心にある考え方は、人の生活のパターン、または性格、または自然が、彼の誕生の瞬間の惑星のパターンに対応するということ。西洋占星術は古代メソポタミアに起源があり、エジプト、ギリシャ、ローマ帝国、イスラム世界に広がった。いつ作物を植えて戦争に行くかを決める。シャルル・ド・ゴールやフランソワ・ミッテランも占星術師にアドバイスを求めたという。カール・ユングの影響を受けた心理占星術は、出生図(出生時の宇宙との個人の関係を示す図)を精神の表現として扱った。占星術師は占い師ではない。
 占星術の人気でアプリが急成長し大きなビジネスも生まれた。BumbleやTinderのような出会い系アプリで身長や場所などの情報が取引される。占星術をテーマにしたFacebookグループには、最大数十万人のメンバーがいる可能性がある。星占いのツイッターアカウントであるアストロ・ポエッツには、64万人以上のフォロワーがいる。出生時間と場所など12個のデータを入力すればよい。面倒な手続きがなくなり、個人の将来がデータ化の対象になった。クリックやボタンでアプリが答えを出す。占星術が広がる背景にはそれを行う人の時間を占有できるようになったこともある。

 IBISWorldによると「神秘的なサービス」市場は22億ドルの価値。タロット、オーラ、出生図などの人気あるサービス。アプリ追跡会社のSensorTowerによると、占星術セクターのアプリの収益は2019年に64%増加して4,000万ドルに。アプリの機能や目的は様々で進化を続けている。

 人気アプリCo-Starは、NASAデータを使用して出生図をプロット。Marketplaceの報告によると、現在750万人のユーザーがいる。手の写真をアップロードできる手相占いアプリもある。問題は占星術が本物かどうかではなく、効果が本物かどうか。
 コロナ禍で星占いに頼る人が増えたのか。初心者向けのバーチャル占星術教室の生徒の数が増えたとも。人気占星術アプリ「Sanctuary」の有料サービスも成長。大きく伸びたのは、パーソナル・リーディングといったより個人に合わせたサービスを提供した占星術師。人々は何を知りたいのか。関心事は必ずしもウイルス関係ではない。ステイホームで自分の家族や仕事をじっくり考え始めた。これからどうなるのかキャリアが気になる。
 インド占星術には「ダシャー(ヴィムショッタリダシャー)」と呼ばれる未来予測技法があるという。ダシャーとは、各惑星がいつ強い影響を及ぼすのか、その流れを計算し表すシステム。人生においていつどのような出来事が起こるのか、予測を行う。ダシャーには人生の大きな流れを示す「マハーダシャー」、それをもう少し詳細(中期的)に分割した「アンタルダシャー」などがある。
 インドには鳥の占いもある。人通りの多い通りで露店の店を構える。カゴの扉を開けるとオウムが出てきて占い師のカードから一枚を「選び」、くちばしでくわえて占い師に渡す。タイなどでも寺院の門で見かける。おみくじをつまむのは日本にもある。ポンディシェリにはフランス人観光客を相手にする占い師がいる。オリエンタリズム的色彩。水晶玉、茶葉、タロットカード。オウムとおしゃべりをする占い師。インド人は、誰といつ結婚するか、そして何曜日に髪を剃り洗うか占星術チャートを用いる。

 ジャイ・スィン2世はムガル帝国の保護下に入ることで生き延びる道を選びジャイプールを繁栄に導いた。この街に2010年、世界遺産に登録されたジャンタル・マンタルがある。ジャイ・スィン2世はヨーロッパやペルシャから膨大な書物を集め、天文学の粋を結集して、1728年から居城であるシティパレスの隣に天文台の建設を始めた。ジャンタル・マンタルには、サンスクリット語で「魔法の仕掛け」という意味がある。 約20の天体観測儀が並ぶ摩訶不思議な光景。
 公益社団法人の日本易学連合会は新型コロナウイルス感染症拡大予防ガイドラインを出している。易学・観相学等での鑑定時においては、政府からの発表を踏まえ、店舗の規模など各店舗の置かれた条件に応じて、換気の悪い密閉空間、人の密集、近距離での会話といった3つの条件が重ならないよう、感染防止対策の取組を各鑑定士が進める。
 疫学と易学はおなじ「エキガク」と読む。


 インドの占い師との交渉は生の謎解き。合理性や倫理性が常識を超越する魔法の仕掛け。

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