「名誉殺人」事件
名誉殺人とは結婚相手を自らの意思で選んだり、婚前・婚外交渉を行ったりした女性を、一家の名誉を汚した者として家族が殺害する「風習」。中東やアフリカ、南アジアなどの古い価値観が残る社会で現在も頻発している。
自分の娘を斬首した父親がインド北部ウッタルプラデシュ州の警察に逮捕されたと複数の海外メディアが報じた。BBCは頭部を持って歩いている男に気がついた地域住民が警察に知らせたという。17歳の娘を部屋に閉じ込めて鋭利なもので首を切ったとみられている。遺体を部屋に残したまま頭部を持って警察署に向かって歩いていたところだった。「娘が交際相手とみられる若い男性といるのを見て怒りが沸いた」とCNN。
男は野菜売りのサルベシュ・クマール容疑者(45)。
2021年2月には異なる宗教間の男女が関係をもったことを理由にインドで女性が家族に生きたまま燃やされた。カーストの異なる男女が周囲の反対を押し切って結婚し地元に帰郷した際に女性側の親族に石を投げつけられ2人とも死亡した。
名誉殺人が年間1000件発生しているとも言われるインドは153カ国中112位で、日本は121位。クマール容疑者「娘を説教していたら感情がコントロールできなくなった」。
射殺、刺殺、石打ち、焼殺、窒息が多い。人権や倫理的な客観から人道的問題としても議論される。国際連合人権高等弁務官事務所の2010年の調査によると、名誉殺人によって殺害される被害者は世界中で年間5000人にのぼるとされる。中東のイスラーム文化圏の国に多いが地域の因習。
特にパキスタンで多く発生。部族の慣習法が国の法律に先立つ。パキスタンでは、2011年に900人の女性が名誉殺人の対象になったとの調査もある。2012年にはパキスタンで結婚式に招待された女性3人が異性と隔離されずに結婚式に参加した罪で殺害された。映像に映っていたのは女性らが結婚式に参加して楽しんでる様子で男性参加者らと一緒にいる様子そのものは映っていなかった。
殺害方法は家族会議で決定される。絞殺や火あぶりなどが挙げられる。直接に殺害するのではなく、自殺するように家族が強制する場合もある。パキスタンでは地域の有力者が集まった長老会議「ジルガ」が名誉殺人を多発させている。政府の力が及ばない地域で組織が裁判所や警察の役割を果たし対象者の罪状も公表する。
著名な例として、女性の自立を訴えつつ開放的言動を続けていたSNSモデルのカンディール・バローチは、ジルガの裁定が下ったことにより、2016年7月15日、実兄の手で絞殺され、国際的に大きく報じられた。ジルガはこれを「見せしめ」であると明言。地域住民は裁判所を「白人のルールに屈する奴隷」であると反発。
婚前・婚外交渉は許されず自分の娘を殺してもその地域においては家族の名誉を守った英雄として扱われる。婚前交渉が無くとも自由恋愛、単に男性を見たという理由だけで発生する殺人もある。殺人行為自体が「名誉」であるとされるため実行犯は家族ぐるみ地域ぐるみで庇われる。国家によって法が整備されていても警察に届けられることはほとんどない。現在報告されている事例も氷山の一角とされる。
イギリスのケンブリッジ大学研究チームの調査によると、ヨルダンの10代の男女850人以上を対象に調査したところ、全体では33.4%が「支持」もしくは「強く支持」すると答えた。支持する考えを示したのは男子で46.1%、女子でも22.1%に達した。
2008年には、イラクのバスラで、占領軍兵士と仲良くなったイラク人女性が父と兄の手で絞め殺された。
「名誉殺人」の対象を積極的に救出している団体として、スイスに本部を置くシュルジールがある。
古典イスラーム法(シャリーア)では婚外交渉はジナの罪として禁止されている。既婚者の場合:石打ちによる死刑。未婚者の場合:鞭打ちの上、追放。刑の執行はカリフの権限、とされており、家族に殺害する権利はない。家族による殺人は、禁止されている私刑とみなされる。
「名誉」を建て前にした近親者による殺害を隠すために「焼身自殺」として処理されることが多い。
ヒンドゥー教では、伝統的な階級制度カーストが根強く残っている。社会学者プレム・チョードリーによれば、インドの名誉殺人の犠牲者数は年間数百~千人で、近年は増加傾向にある。インド政府は罰則のなかった名誉殺人の「教唆」に罰則を設ける刑法改正案を準備中。
インドでは、宗教やカースト、社会的地位の違いに苦しむ恋人を、名誉殺人を含む様々な攻撃から守るため、「全インド恋人党」という政党が2008年に結成された。ヒンドゥー以外の宗教の信徒もカーストを持つことがあるため、ヒンドゥー以外の信者の中でも、カーストにまつわる名誉殺人が起こることがある。
SNSで首を持つ父親の画像が拡散した。自殺に追い込まれる女性。自殺攻撃。殺人に理由などない。