『ジャッリカットゥ 牛の怒り』

インドの牛の映画だというのでヒンドゥー教徒の牛の話かと思っていたら大きな間違いだった。水牛、ブルなのだが、牛を追ううちに人間が狂気にまみれていく。静かな村の人間のバランスが牛の逃亡という「事件」によって崩れ秩序の崩壊が加速していく。牛を追うだけの話なのにどんどん引き込まれていく。スタビライザーをつかった移動ショットで道の先へ先へと脳内の位置情報が進んでいく。観客はスクリーンに惹きつけられたまま衝撃のラストを迎える。混乱と秩序の崩壊が音楽と音響効果の伴走、伴奏を伴う。言葉でプロットを書いてもネタばれないにはならない。見ないとわからない映画だ。第93回アカデミー賞国際映画賞のインド代表作品として選出された。牛追いのパニック映画という感じ。“暴走牛VS1000人の狂人”という触れ込み通りの映像が最初から最後まで続く。

舞台は、南インドのケララ州の村。肉屋の男アントニが一頭の水牛をと殺しようと鉈を振ると命の危機を察した牛は怒り狂い全速力で脱走した。水牛カレーや婚礼用の料理のために肉屋に群がっていた人々が慌てて追いかける。暴れ牛は村の商店を破壊しタピオカ畑を踏み荒らす。アントニは牛を捕まえようと奮闘する。荒くれ者クッタッチャンは猟銃を使う。牛追い騒動が人間同士の争いへ発展していくところが見どころだ。監督はリジョー・ジョーズ・ペッリシェーリ。水牛は実写。何でもCGの時代に実写の迫力を堪能できる。じっとこちらを見つめる牛は怖い。

原題は「Jallikattu」。ハリッシュの短編小説「毛沢東主義者」がもとになっている。丘の多い辺境の村の食肉処理場から逃げる雄牛と、狩るために集まった村の男たちを追う。第 50 回インド国際映画祭で最優秀監督賞を受賞した。マラヤーラム映画。
井戸の底で見つかった牛を取り囲む村人たち。激しい雨。滑り落ちるロープ。混乱が生む死。さらなる混乱。車に放たれる火。人を刺し牛を刺すアントニー。松明を手に集まった人々が身もだえする人体の塊を形成する。
インドの牛追い祭り「ジャリカット(Jallikattu)」では死者が出ることもある。雄牛が群衆に突進する。何者かが牛をアリーナの外に逃がすことがある。雄牛が観客席へ突っ込むこともある。角で突かれて死亡することもある。男たちは賞品を勝ち取るために、会場に放たれた雄牛の鋭い角やこぶをつかもうと立ち向かっていく。賞品には車やバイク、冷蔵庫やテレビ、さらには金貨や家具が用意されている。タミルナドゥのものが有名。動物愛護団体からは、参加者が動物を虐待しているとして非難の声も上がっている。
牛追いといってもスペインのエンシエロは祭礼などで牡牛の群れの前を人間が走る行為。前を走るのは人間。それとは違う。「闘牛」で遊んでいるうちに人が犠牲になる。何かを求めて塊を作る人間。先史時代の男たちと何も変わらない。