アフガニスタンはどこに向かうのか ①パキスタン
タリバンによるアフガニスタンの再制圧を受け、関係国の動きが急速に進んでいる。アフガニスタンは力の空白が生まれやすい。アジアの内陸部で、19世紀にはイギリスとロシアが勢力を争った。20世紀は冷戦の米ソの争いの舞台となった。2400年前にはインドのアショカ王が現在のアフガニスタン東部を含む南アジアに仏教帝国を築いた。7世紀にイスラム化したが、インドのヒンドゥー教徒は生き残りパンジャブにはシク教が生まれた。今、イスラム主義組織タリバンが政権を掌握した。米国が撤退した後のこの国の行方を直接決めるのは中国でもロシアでもイランでもない。隣国のパキスタンとインドだ。三回でまとめた。
#パキスタン
パキスタンとタリバンの結びつきは深い。パキスタン政府は、米国が支援するアフガニスタンの民主政権に抵抗するタリバンを支援している、と批判を浴び続けたが、これを表向き否定してきた。
「アフガニスタンの人々が奴隷の鎖を断ち切った」
タリバンがアフガニスタンの首都カブールを制圧するとパキスタンのイムラン・カーン首相はこう述べて喜びを露わにした。タリバンの全土制圧を「隷属からの解放」と述べて歓迎した背景にはパキスタンはインドに対抗する手段としてアフガニスタンの利用を考えているということがある。
SNSではパキスタン人がタリバンの復活を喜んだ。テレビでも大喜びする様子が伝えられた。
パキスタン外務省の報道官は「地域の平和と安定を確保するため包括的な政治的解決を望んでいる」としているが、タリバンが国造りを進めていくのかを見る上でパキスタンの影響力を無視することはできない。
しかしパキスタンがタリバンに表向き強い支持を打ち出すとアメリカとの関係が悪化する恐れもある。アメリカとパキスタンの関係は、同時多発テロの直後にテロ対策強化で一致した。その一方でアフガニスタンで大規模な掃討作戦が行われていた時期に、国際テロ組織アルカイダのオサマ・ビンラディンはパキスタンに潜伏していた。これをどう見るか。パキスタンの通報とみるのか、アメリカが見つけたとみるのか。その関係は微妙だ。
冷戦時代にパキスタンを支援したアメリカは今インドとの関係を深めている。この地域からの撤退の中で、インドへの依存の比重はこれまで以上に強くなるだろう。そのインドとパキスタンは対立している。アメリカはパキスタンを信頼することができるのか。バイデン大統領はパキスタンのカーン首相といつ会うのか。カシミールの問題はトランプ大統領とカーン首相の会談で動いた。
今後のカギを握るのはパシュトゥン人だ。タリバンのメンバーはパシュトゥーン人が主流。パシュトゥーン人はペシャワールなど隣国パキスタン西部にも居住している。イギリス領インド帝国の外相がアフガニスタン国王との間で決めた国境でパシュトゥーン人の居住地域が分断されたがもともとは一体の地域で、パシュトゥーン人は互いの行き来も活発だった。パキスタンの貧困層が多くタリバンに同胞意識を感じている。
パキスタンはタリバンをコントロールできないのか。パキスタンの諜報機関である三軍統合情報部(ISI)がタリバンと接触してとされる。過去20年間、ISIはタリバンのリクルート活動などを黙認してきた。パキスタンの手助けがなければタリバンの復活はあり得なかったともいわれる。
タリバンの台頭によってパキスタンの過激派が覚醒する恐れもある。2014年には北西部ペシャワールで児童ら150人が犠牲となったテロがあった。これに対し、パキスタン陸軍は過激派掃討作戦「ザルベ・アズブ(預言者ムハンマドの剣撃)」を実施した。タリバン残党らも含む多くの武装勢力をアフガン側に追いやった。パキスタンは過激派がパキスタン側に戻ってくることを警戒している。最強硬派の「ハッカニ・ネットワーク」が要注意だ。
パキスタン国内にはアフガニスタンのタリバンとつながりがある「パキスタン・タリバン運動(TTP)」がいる。ノーベル平和賞受賞者であるマララ・ユスフザイさんを襲撃したのもTTPの犯行だった。
アメリカ国務省の外国テロ組織リストに入っているTTP は、アフガンやパキスタン北西部で、米国の対テロ作戦の標的になってきた。過去三代の指導者は全員、米国の無人機攻撃で殺害されており、先代のファズルラはアフガン国内で攻撃されている。TTP の復活の背景には、タリバン内の強硬派かつパキスタンとの結びつきが最も深かったハッカニ・ネットワークの後押しがある。
1979年にソ連がアフガニスタンへ軍事介入。アメリカはアフガニスタン国内のイスラム武装勢力を支援して対抗した。パキスタンは前線基地として武装勢力を育てた。1989年にソ連が撤退し内戦に陥るとパキスタンはタリバンを支援した。国際的に孤立していたタリバン政権を承認していた一つだった。
同時多発テロ事件後、アメリカがタリバン政権を崩壊させるため隣国のパキスタンに協力を求め、パキスタンはアルカイダの追討作戦でアメリカに協力する姿勢をとりながらも反政府勢力となったタリバンを支援し続けていた。タリバン指導部や戦闘員らがパキスタンへと逃れた。パキスタンの軍統合情報部(ISI)の支援を得て2000年代後半からアフガニスタンでのタリバン復活に道を開いた。トランプ政権はパキスタンとタリバンとの関係を利用した。タリバンとの和平合意にパキスタン側も協力し、2020年2月に歴史的なアメリカとタリバンとの合意があった。
クラブハウスで議論した。②中国に続く。