不参加
インドが参加しないので地域の貿易が進まない。RCEPはインドと中国の文脈でみないとインドが頑固にしか見えない。インドは「大阪トラック」にも不参加の意向を示している。日本が提唱するデータ流通の国際ルールを作成するのが「大阪トラック」構想。安倍首相は、G20サミットの関連イベントで、「大阪トラック」と名付けた、データの自由な流通や電子商取引(EC)に関するルール作りの開始を宣言した。自由貿易を推進するために日本が音頭取りをしようという。交通、ECなどさまざまな分野で国境を越えたデータのやり取りが技術革新につながっている。特に注目されているのが医療分野で、国境を越えて体温や血圧など膨大なデータを収集し人工知能(AI)で分析することで、病気の早期発見と目に見える具体的な成果が早期に実現されると期待されている。逆にデータの流通が滞れば世界経済の阻害要因になる。安倍首相は「来年(2020年)6月を予定する世界貿易機関(WTO)の閣僚会議までに実質的な進展を目指す」と述べた。データ流通の規制を各国・地域でばらばらなものをまとめ活用するとして「信頼性のあるデータの自由な流通(DFFT)」の考えを提唱している。
日米はデータの自由な流通を訴えるが、国は国家主導によるデータの管理を主張。プライバシー保護を重視する欧州連合(EU)はむしろ規制強化に熱心で、ルール作りでは温度差もある。G20のなかでも、インド、南アフリカ、インドネシアの3カ国は賛同しなかった。インドは会合を欠席した。データは国家の資産だという考えが根底にある。他国に利用されることへの強い警戒感もある。
日本が成果を出したいもう一つの貿易の枠組みがRCEP。これもインドが反対している。日本や中国、韓国など16カ国は2019年11月4日、東アジア地域包括的経済連携(RCEP)について、目標としていた年内妥結を断念した。RCEPは2013年から日中韓、東南アジア諸国連合(ASEAN)、インド、オーストラリア、ニュージーランドが交渉を進めてきた。合意すれば世界の人口の約半分、貿易額の約3割を占める巨大な自由貿易圏ができる。しかし、貿易赤字の拡大を懸念するインドが関税撤廃などで慎重姿勢を崩さなかった。インドは会合後に「RCEPに今後参加しないと各国に伝えた」とかなり強硬。インド外務省のビジェイ・シン局長は会合後の記者会見で、RCEPについて「インドにとって解決されていない重要な懸念がある」と述べた。交渉からの離脱となるとASEAN+6の交渉の枠組みがなくなり、インドなきスタートになる。アメリカなきTPPと同様、貿易の流れの主流を変えるものになる。
インド国内の事情をみると、不参加の理由はわかりやすいかもしれない。インドは経済成長の鈍化が指摘される。2019年4~6月期の実質成長率が5%に下がり、失業率も過去最悪の水準となった。「政権初」ともいえる景気減速局面を迎えて、農業など自国産業が大きな打撃を受けかねない自由貿易の拡大には慎重にならざるを得ない。インドの1人あたりの国内総生産(GDP)はまだ2千ドル(約21万7千円)強にすぎず、RCEP16カ国のうち14位。17年のインドの貿易総額は7494億ドルのうちRCEP交渉国がとの貿易が約3割を占め、交渉国がインドの貿易赤字の65%を占めている。つまり、中国との貿易赤字が深刻なのだ。自由貿易を進めるとこれまで以上に中国の安い製品がインド市場に流れ込む。さらにオーストラリアなどの農産物の流入も防げなくなる。各国ともインドの巨大市場を狙っている。
仮に、インド抜きの合意となると、これは中国が中心の貿易の枠組みになる。日本はインド抜きでは中国の影響力が突出する恐れがあると警戒している。