センもトッドも賞賛したケララ、なぜうまく新型コロナを抑え込めているのか考えてみた

ムンバイでは感染が拡大しているのに最初に感染が確認されたケララでは感染の広がりが抑え込めているのか。やはりインドの中でもずば抜けて高い教育水準。看護師を世界に送り出す人材力。警察官の手洗いダンス。病院船。そんなことが思い浮かんだが、それにしてもなぜは続く。ケララにそんな特異性が生まれた理由をさぐっていくと、災害や感染症との戦いがあった。
 人類学者のエマニュエル・トッドは、ケララの家族制度について、非対称型共同家族 だと分類している。相続は母系制、親子関係は縦型、兄弟関係は平等、近親相姦タブーは非対称婚。そして教育的潜在力が強い。イデオロギーは、カースト制度+共産主義を特徴とする。アマルティヤ・センは、開発経済の優等生としてケララモデルを賞賛する。
 インド初の新型コロナウイルス感染者が確認されたのはケララ州。感染者はケララ州出身の武漢大学の学生でケララ州に一時帰国した際、感染の兆候がみられたため同州トリシュールの病院で隔離されていた。2020年1月30日にインド政府が発表した。
 ところがその後、ケララでは感染拡大が抑えられた。2020年4月20日現在で、ケララ州では140の陽性症例がある。記録が開始されてから3名が死亡し399名が感染している。インド全土では17265人の陽性例と543人の死亡例があることを考えるとよく抑え込んでいるといえよう。ケララはインドで初の感染例が確認された場所であるにも関わらずだ。その成功の秘訣は問題に対処する準備と過去の流行の経験で、30万人近いボランティアが政府の間の緊密な協力で感染防止にあたっている。中央政府と地方自治体や村の当局の間の対立もない。
 コロナ禍の中で、ケララ州は日本を含む一部の国からの渡航者に対しインド入国後28日間の自宅待機措置を求めた。2020年2月9日の時点で、ケララ州政府は中国、日本、シンガポール、タイ、マレーシアk、韓国、ベトナムからの渡航者に対し呼びかけている。
 ケララは南インドで人気の観光地。インド国内で最高の識字率を誇る。治安が比較的よく、一人で旅行する女性も多い。アユルヴェーダが南インド発祥であることも人気の理由。ケララには本格的なアユルヴェーダリゾートがある。健康維持や治療のために生活に取り入れられている伝統的な医療が日本では考えられない格安の値段で受けられる。
 ケララ州は、東にタミル・ナドゥ州と接し、北にカルナタカ州と接する。州都はティルヴァナンタプラム。マラバール海岸でインド洋に臨み、南の沖にはモルディブがある。旧フランス領のマーヒ地区も含む。1957年に普通選挙で共産党政権が発足して以来、「共産党」による政治が続いた。インド初のIT特区であるテクノパークもあり、インドの宇宙開発の発祥地でもある。ケララの特徴は、人間開発指数が高く、識字率はほぼ100%。家族計画政策で人口増加率が低く平均寿命もインドでは最も高い。そしてインドで最も公衆衛生が進んでいる。こうした開発モデルは経済学者のアマルティア・センが賞賛している。ケララの看護人材は中東諸国から引っ張りだこになっている。
 去年の総選挙では国民会議派のラフル党首が重複立候補したケララ州で当選して辛うじて議員の座を守った。インド人民党の勢いに飲まれなかった数少ない州の一つだ。国民会議派は地元政党ドラビダ進歩同盟のDMKと組んだ南部タミルナドゥ州た、従来から中央からの独立志向が強い北西部パンジャブ州でも勝利したが、それ以外ではほぼ惨敗、全敗だった。
 ケララ政府は早い段階から「感染しているリスクの高い者」を具体的に示した。新型コロナウイルス感染者との接触のあった者。新型コロナウイルス感染者を治療している病院を訪れたことがある者。現在も感染が続いていることが確認されている地域に渡航した者。新型コロナウイルス感染者の体液(血液,唾液等)に触れた者。医療従事者を含め,新型コロナウイルス感染者と物理的接触のあった者。新型コロナウイルス感染者の衣服,シーツ,食器などに触れた者。新型コロナウイルス感染者と半径1メートル以内にいた者。
 93歳男性が新型ウイルス感染から回復しインド最高齢として注目を集めたのもケララだ。2020年4月、主に高齢者が重症化するとされる中、88歳の妻も回復した。イタリアから帰国した娘と娘婿から新型ウイルスに感染したという。男性には高血圧と糖尿病の持病がありBBCによると人工呼吸器を24時間つけなければならなかったとのこと。医療レベルの高さがうかがえる。
 こうしたケララの強さはどこからきているのか。2018年8月ケララは大洪水に見舞われている。ダムや貯水池で水量が限界に達し緊急放水を開始し下流域で多くの河川が氾濫し床上浸水する家屋が続出した。中心都市コチの国際空港は冠水のため閉鎖された。この「過去100年間で最悪の洪水だ」で、「ネズミ熱」で12人死亡した。アラップーザ県を見舞った洪水の最中、汚染された水が原因で、レプトスピラ症が広がったとみられている。レプトスピラ症は、ネズミなどの動物の尿を含んだ水、土、食物を通して伝染する病気。マラリア、デング熱、水ぼうそうの感染例も報告された。日本ではほとんど報じられなかったが、このモンスーンの豪雨災害では、およそ500人が死亡し100万人超が避難を強いられた。 2018年8月18日、モディ首相は上空から被災地を視察し救援部隊を増派し、孤立した住民の救出を指示した。

 2019年6月にはニパウイルスの感染者が見つかった。前年の2018年にもケララ州北部でニパウイルスの流行が拡大して17人が死亡している。ニパは動物から人に感染するウイルスで、感染者は40~75%の確率で死に至る。感染しても症状が出ないこともあれば、脳炎を引き起こしてさまざまな合併症を併発する場合もある。コウモリが媒介となることが多く、ブタなどの家畜も感染して人も感染する。感染者の自宅の井戸から発見されたオオコウモリが感染源だった可能性が指摘されいる。

 まだまだ油断が禁物だが、同じインドでも医療格差は大きい

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