【知っトク】インドのカースト制についての5つの誤解
その1)カーストはインド古来の言葉である。
「カースト」はインド古来の言葉ではない。ヴァルナ制とジャーティから成る身分制度をポルトガル人が呼んだ「血統」を意味するポルトガル語の「カスト」のことである。つまり自称ではなく外から見た視線で呼んだ概念。現在は自称にもなっている。「カースト制度」は古代から伝わる「ヴァルナ」という身分の階層と「ジャーティ」という職業的な集団が結びついてできた、ヒンドゥー教徒の多いインド独特の社会制度。だからその内実を知るにはインド古来の「ヴァルナ」と「ジャーティ」を知る必要がある。「ヴァルナ」は身分、「ジャーティ」は職業。身分的な階層であるヴァルナは、バラモン(司祭,僧侶)、クシャトリヤ(王族,戦士)、 ヴァイシャ(庶民階級)、シュードラ(隷属民)という四つに分けられていた。身分制度なのでこれを単純にカースト制のすべてと勘違いする人が多い。職業的な集団であるジャーティは、庭師、大工、牛飼いといった職業を世襲する集団の苗字。内婚集団であることが特徴。日本でも戸籍を管理していた「戸部(とべ)」さん、荘司からきたと言われる東海林さん、司法に関連した・「刑部(おさかべ)」さんなど、職業と苗字が重なる例は多い。インドとの違いは、その苗字の人がその職業に就くことが固定化されていること。それぞれのジャーティはヴァルナに属するので、身分制度の一部ともいえる。
その2)インドではカーストは否定されている。
インドの憲法で否定されているのはカースト制ではなくカーストに基づく差別。インドの憲法第46条
「国は国民の中の弱い層、特に指定カーストと指定部族に対して、教育上や経済上の利益を特別の配慮を持って促進し、彼らを社会的不正義とあらゆる搾取から守る」とある。カーストの存在を認めた上で、差別による被害をなくしていこうという姿勢。
その3)カーストは4段階に分かれている。
ヴァルナの4階層に入らずに、その下でもっと差別された人たちがいる。「ダリト」「指定カースト」とか呼ばれる人たち。指定カーストは「不可触民(アンタッチャブル)」と呼ばれた人たち。「穢れているので触ってはいけない人々」として差別をされてきた。指定カーストのほかに、指定部族もある。言語.宗教などの文化的独自性、経済的な遅れや僻地に在住しているなどで、差別をされてきた人々であることの「指定」を受けた部族。「ダリト」は指定カーストの人々が自称する際にも用いられる。
その4)不可触とされる人もごくわずかに残っている。
ごくわずかではない。人口比率で約20%が指定カーストといわれる。バラモン、クシャトリヤ、ヴァイシャが上位カーストで約30 %。シュードラが下位ヵーストで約50%。指定カーストはアファーマティブアクション(弱者集団の不利な現状を、歴史的経緯や社会環境に鑑みた上で是正するための改善措置)の対象になり保護、優遇される。差別と貧困に悩む被差別集団の進学や就職や昇進で特別な採用枠の設置や試験点数の割り増しなどの優遇措置がある。利益が得られるので、日本でかつてあったように身分を隠したりすることはなく、政治集団として権利を主張する。またその権利追及が過剰だとして、指定カースト以外の人々からの反発もある。
その5)ガンディーはカースト制を否定した。
ガンディーはヒンドゥー教だが、不可触民の解放が重要だと考えた。不可触民に対する差別はヒンドゥーの教えとは違い間違っていると表明した。不可触民を「神の子」を意味する「ハリジヤン」と呼んで、バラモンより上位に置いた。カーストによる差別には反対だがカースト制度は容認した。不可触民の分離選挙でガンディーと論争したアンべードカルは、不可触民差別の根源はヒンドゥー教にあるとして、1956年に数十万の不可触民とともに仏教に改宗した。アンベードカルはインドの憲法の草案を作成した。
コロナ禍の中で意識の根底にある不浄や差別。カーストに属さない情報通信の職業がインドを非接触社会へと大きく変えようとしている。