SAVE♡INDIA 酸素不足
インドの俳優でSNSへの動画投稿でも知られたラウル・ボーラさんが、新型コロナウイルス感染症で死亡した。35歳だった。直前に撮影された動画で、入院先の医療体制を批判していた。妻のジョティ・ティワリさんが10日、インスタグラムにボーラさんの訃報と動画を投稿した。
ボーラさんは病室からの動画で「酸素は今、極めて貴重だ。これがないと患者は目を回して苦しむ」「付き添いの人を呼ぼうとしても来ない。1時間以上待たされるので、いない間は自力で何とかしなければならない」と訴えていた。ボーラさんはフェイスブックへの投稿でも、最後に「もっと良い治療を受けていたら私は助かっただろう」と書き、モディ首相をタグ付けしていた。ティワリさんもインスタグラム上で同病院を批判し、「夫が正義を勝ち取れますように」と書き込んだ。
多くの人々が救急車や駐車場でベッドや酸素を待って亡くなっていく。安置所や火葬場は止まらない遺体の流れに追い付かない。
インド政府は5月1日、直近の24時間の新型コロナウイルスの新規感染者が40万1993人になったと発表した。1日の感染者数としては世界最多を更新した。死者は3500人を超えた。
インド政府は同じ日に新型コロナのワクチン接種対象をそれまでの45歳以上から18歳以上に拡大したが、各地でワクチン不足が深刻化していた。接種希望者が大挙して押し寄せれば混乱し感染がさらに拡大することになる。デリー首都圏政府のケジリワル首相は「まだワクチンが届いていない。ワクチンのために列をつくって並ばないでほしい」と訴えた。
医療用の酸素の不足はさらに深刻だった。同じ5月1日には、酸素の供給が間に合わずニューデリーの病院に入院中の新型コロナ患者12人が死亡した。救急搬送されても治療を受けられないのだ。
インド西部マハラシュトラ州の病院で4月21日、人工呼吸器への酸素供給が停止し新型コロナの少なくとも患者22人が死亡した。州都ムンバイの北に位置するザキール・フセイン病院の前に駐車していた車両の酸素タンクから酸素が30分間にわたり漏れ、その間、重症患者60人余りの人工呼吸器への酸素供給が停止した。ナレンドラ・モディ首相は事故について「心が痛む」とツイッターに投稿した。ムンバイを抱えるマハラシュトラ州はインド最大の感染拡大地となっていた。マハラシュトラ州ではその二日後に別のムンバイの病院で新型コロナの集中治療病棟で出火し少なくとも13人が死亡した。
マハラシュトラ州のウッダブ・タークレー首相は空軍による酸素の空輸を政府に要請。ほかにも、グジャラート、ウッタルプラデシュ、ハリヤナの三つの州で、酸素不足が深刻となり、インド空軍が酸素を国内各地へ輸送した。液体酸素を運ぶ「酸素急行列車」も不足する各地に酸素を運んだ。
被害の拡大は止まらず、世界保健機関(WHO)は、週間まとめで世界の新型コロナウイルス症例のほぼ半分と死者の4分の1をインドが占めていると指摘した。
5月1日には、インド西部グジャラート州にある病院の新型ウイルス感染症病棟で火災が発生し患者16人、職員2人が死亡した。当時病院には60人近い患者が入院していた。出火原因は電気系統のショートとみられている。
火葬場では個人用保護具を着用した男性が遺体を運ぶ。火葬場に運び込まれる遺体の数が急増し駐車場や川岸に臨時の火葬場が作られた。レンガやまきを積み上げて火葬が行われた。薪が不足し公園の木を伐採する動きも伝えられた。
ガンジス川の河畔には少なくとも40体の遺体が漂着した。インド北東部ビハール州と北部ウッタルプラデシュ州の州境近く。遺体の状態から、数日間川の水に漬かっていた可能性がある。ビハール州当局は岸辺に遺体が漂着した川に網を設置した。遺族が貧しさから伝統的なヒンズー教の火葬を行うためのまきを買えなかったか。火葬場に空きがなかったか。検視結果から漂着した遺体は死後4、5日が経過していた。
首都も再び封鎖された。ニューデリー首都圏政府は4月19日1週間の都市封鎖を行うと発表した。食料品や薬などの生活必需品の買い物以外は原則として外出が禁止され、ネット通販で賄うよりほかになくなった。政府の命令による感染拡大措置だった去年3月にも外出制限とは異なり、自分たちの命を守るための措置という切迫感があった。
去年のロックダウンの際には、経済活動の停止で、ガンジス河がきれいになったとか、大気汚染がなくなってヒマラヤの山麓が目視できるようになったなどと話題になったが、今回のロックダウンでは、そうした静けさとは異なり、救急車のサイレンが絶え間なく響く。なぜそのような事態になったのか。