公約

与党が国の安全保障の強化を、野党が失業対策や農家への支援をそれぞれの公約の柱にかかげ政策の違いが鮮明になった。総選挙は、2期目を目指すモディ首相率いる与党、インド人民党と、政権交代をねらう野党の国民会議派が議席を争う構図。与野党とも、11日までに、公約となるマニフェストを発表した。
与党のインド人民党を率いるモディ首相は、軍事的緊張が続く隣国パキスタンや国境問題を抱える中国を念頭に、国の安全保障の強化を公約の柱に掲げ、「愛国心がわれわれを鼓舞し、国を強くすることがわれわれの政策だ」と訴えた。さらにモディ首相は「国家主義、貧困層への福祉、安定した統治の3点に重きを置いた」と語った。

8日に公表したマニフェスト。2030年までにインドを世界3位の経済大国に引きあげるとし、インフラ投資へ24年までに100兆ルピー(約160兆円)をあてると約束した。国内総生産(GDP)は25年までに5兆ドル(約560兆円)、32年までに10兆ドルに拡大させる。テロへの徹底対抗姿勢や軍事力の強化といった安全保障に加え、農家の収入倍増を目指した補助金の対象者拡大や小規模農家への年金制度の導入など、農家の社会保障の充実などを強調した。製造業振興策「メーク・イン・インディア」の継続、中小零細企業やスタートアップへの支援、減税、デジタル化などを重点項目。ビジネス環境は、会社法改定や新産業政策の発表についても触れた。前回の総選挙の際のインド人民党のマニフェストは、インフレ対策、汚職撲滅、雇用創出などに焦点。今回は、安全保障や社会保障を強調しながら、大票田となる農民や低所得者層からの支持獲得を狙う形となった。農村票の獲得のため、農民所得の倍増、農家向けゼロ金利融資専用カードの導入にもマニフェストで言及した。空港は5年以内に2倍へ増やし、再生可能エネルギーによる発電能力は175ギガワットに引き上げるという。財源については言及せず、歳入総額が年27兆ルピー程度なのに、5年で100兆ルピーをどう確保するというのだろう。

モディ首相は、「メーク・イン・インディア」=「インドで作ろう」というスローガンを掲げ、海外からの投資を呼び込んで製造業の振興に努めた結果、7%を超える高い経済成長を実現。外交や安全保障では、中国を意識してインド太平洋地域のリーダーとして存在感を示そうとした。「テロとの戦い」だとして、パキスタン側に2度越境して、イスラム過激派組織の拠点を攻撃するなど強硬な姿勢も見せた。

野党、国民会議派を率いるラフル・ガンディー総裁は、失業対策と農家への支援を公約の筆頭に打ち出し、モディ首相は国民に本当のことを伝えていない。今、深刻な問題は失業だ」と批判した。
国民会議派の2019年選挙マニフェストでは、5,000万世帯の最貧困層に対して年間7万2,000ルピー(約11万5,200円、1ルピー=約1.6円)の現金を支給することを柱とした、最低収入保障制度の導入、いわゆるベーシック・インカムの導入を掲げた。政府機関や公社などの40万件推定の空席ポストで、2020年3月までに新雇用を創出する方針も。さらに、農家の債務の取り消しについても約束するなど、低所得者層や農民から票の取り込みを急ぐ。

2014年の選挙で敗れたラフル・ガンディー総裁は、モディ政権の5年間で失業率が高まり、農村部には経済成長の恩恵が及んでいないと指摘。モディ首相の経済対策は失敗だったとしている。ヒンドゥー至上主義の団体を支持基盤とするモディ首相が国内の宗教対立をあおっていると非難を強め、野党勢力の結集を呼びかけている。
地元メディアの複数の世論調査では、単独で議会の過半数を占める与党のインド人民党が今回の選挙で議席を減らすという予想。NHKニュースでは、モディ首相の続投に向け、「与党が過半数かそれに近い議席を確保できるかが焦点」と放送された。投票期間に入ったため、選挙目当ての政策は、とっていけないことに表向きなっている。ただ、いずれの党も、やれることに大きな違いはない。低所得者層対策、景気対策、成長戦略、国防など、違うとすれば、宗教や国防、セキュラリズムにかかわるところだ。パキスタン機撃墜、衛星撃墜、空爆、と続いた。160兆という実弾にも驚いたが、まだ投票終了までには、次なる一手が続くのだろう。

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