ニュースメモ 北京ボイコット

インドが北京オリンピックの外交的ボイコットに踏み切った。中国のオリンピック聖火走者係争地司令官派遣に反発。開会式と閉会式は生中継もしない。選手はカシミールのスキーヤー1人が参加。

2000年代中ごろから国境軍事やインフラ整備でインドが中国に追いついてきたことからチベット問題と国境問題が結びついた。「中印国境問題は、実質的にはチベット問題であるが、可視化されているのは、国境における軍事力整備、インフラ整備をめぐる競争である」

http://www.nids.mod.go.jp/publication/commentary/pdf/commentary049.pdf

中国との無用な緊張対立を避けてきたインドだが、怒らせしまった。大人の関係にも限度がある。聖火ランナーとなった中国軍兵士は2020年のガルワン渓谷国境地帯で起きた中印衝突の際の現地司令官とされる。アメリカの上院外交委員会の重鎮、共和党のジム・リッシュ議員も中国を非難。
https://indianexpress.com/article/world/beijing-olympics-galwan-soldier-torchbearer-us-senator-reaction-7754341/

2020年のガルワン危機を振り返る。ヒマラヤ地帯にあるインドと中国の国境係争地で6月15日両軍の衝突が起き数十年で最大規模の死者が出た。衝突に至るまでの数日間に、中国側がこの地帯に機械類を持ち込み、山中に小道を切り開き、川をせき止めた可能性さえあることが、衛星写真から判明していた。インド側の説明によると、衝突のきっかけは実効支配線のインド側に中国がテント2基と監視台を設置したことだったという。衝突は1967年の国境紛争以来最も深刻なものとなった。ジャイシャンカル外相は17日、中国の王毅外相と電話会談。

ガルワン渓谷は中国新疆ウイグル自治区とインド北部ラダック地方にまたがる。インドと中国4000のキロの国境は氷河や砂漠や森林の山岳地帯まで広範囲。12万キロ平方メートル超。ガルワン渓谷は極度に乾燥した人が住めない地域で急峻な稜線沿いに兵士が配置されている。インドが領有権を主張する。中国が実効支配するアクサイチンへと続く地域。1967年以降、国境で銃撃戦はなく、兵士はライフルを背中に下げておくよう指示され中国側は鉄棒とスパイク付きのこん棒を使用したともいわれる。両軍とも発砲はしなかった。インド側の部隊を指揮していたサントシュ・バブ大佐も犠牲者の1人となった。

https://graphics.reuters.com/CHINA-INDIA/BATTLE-LJA/yxmpjlgoypr/

2021年2月、中国人民解放軍機関紙・解放軍報はインド軍との昨年6月の衝突による中国側の死者は4人だったと実名入りで伝えた。中印両軍の衝突で双方に死者が出るのは45年ぶりで、インド軍は20人が死亡した。中国は死者数を明らかにしていなかった。中国軍は、作戦中に死亡した兵士4人と重傷を負った隊長をたたえ「栄誉称号」などを与えたとされる。中国側は責任は完全にインド側にある」としている。

https://www.jiji.com/jc/article?k=2021021901069&g=int

中央軍事委員会は西部国境を守ったとして2人の将校と3人の兵士を表彰し4人は殉職後の表彰。生き残りは一人。以下引用「中国国境警備団の団長を務めた祁発宝(Qi Fabao)氏は問題解決のため、数人の兵士を連れて交渉に臨みましたが、数倍の数の外国軍に攻撃され、死闘を繰り広げました。増援隊の到着により、インド軍を退去させましたが、この衝突により中国側は4人の犠牲者を出し、1人が重傷を負ったということです」

https://www.afpbb.com/articles/-/3332980

中印の国境問題で死者が出るのは1975年以降で初。5月初旬にはガルワン渓谷よりも南のパンゴン湖で両軍の殴り合いが発生していた。15日の衝突は緊張緩和の取り組みの最中に起きた。両軍の対峙が複数地点で同時に起きため偶然の遭遇とは考えにくい。山に棚上げしてた問題がインフラの充実とそれをとらえる衛星の技術で可視化され緊張を高める。中国の一帯一路がインドの近隣国、縄張りを犯す形となっていた。2017年夏のドクラム危機に続く。

2018年4月の非公式首脳会談でドクラムの喧嘩は収まったはずだった。中国は、2019年2月には、印パ軍事危機に際しパキスタンを積極的には支持せず、5月には、パキスタンの支援が疑われる反インド武装組織指導者への国連制裁について長らく維持してきた反対を取り下げたが、インドは中国企業を狙った形で「インドと国境を接する国」からの直接投資を政府の事前承認制とした。インドはカシミール地方のインド実効支配地域を特別の自治権を持つ州から二つの連邦直轄領に再編。イスラム教徒の反発が注目されたが、もっと大事な問題が中国に対し「ここは私のもの」と宣言したことだった。インド政府が公表した直轄領ラダックはの範囲は中国が実効支配するアクサイチンまでを含んでいた。

https://wedge.ismedia.jp/articles/-/20006?page=3
https://www.afpbb.com/articles/-/3139411?cx_amp=all&act=all

インドの対中国の基本姿勢は変わっていないが、ものの言い様が変わってきたのかもしれない。本当に怒らせたのは間違いないが、絶妙のタイミングの口実にもなった。