モディ経済の光と影
ナレンドラ・モディ首相は、インドを世界最大の経済大国にするための上昇軌道に乗せ続けてきた。たしかに富の格差は拡大している。しかし、インド人の多くは以前より裕福な生活を送っている。モディ首相は10年間の在任期間を経て、総選挙で再選を目指す。2014年の選挙では「良い時代が来た」と語った。インドの株式市場の価値はモディ首相の10年で3倍に上昇した。十分な富と投資リスクへの意欲を持つインド人の数が人口の2%から5%近くに急増した。
しかし、格差は拡大し経済的利益は不平等に広がった。インドの成長の大部分は巨大で厳しく管理された企業と高所得者の頂点に立つ一部の人々の動向に左右される。インドの人口14億人の90%は、年間3,500ドル未満で生活している。たしかに最も貧しい農村地域では、モディ政権の福祉プログラムで飢え死にすることはなくなった。無料の穀物が入った袋が配られ、トイレが整備され、ガスシリンダーも無料か低価格で提供された。恩恵の多くは確実で目に見える形で提供され人々の暮らしを変えていった。生活スタイルが変化し、LED照明、安価なスマートフォン、ほぼ無料のモバイルデータがインド人の暮らしを変えていった。
外国の投資家もモディ経済に好感を抱いている。世界の株式指数や債券指数はインドの比重を引き上げている。モディ氏が今年再選されなければインド市場は25%以上暴落する可能性があるとの警告もある。アメリカの経済も順調だが先行きが不透明でと生活実感に架ける。インドは逆に雰囲気がよい。インドの消費者は楽観的だ。
モディ経済の過去10年間でインドは確かに成長した。注意しなければならないのはその前の十年間も成長を続けてきているということだ。モディ首相の前任で経済学者マンモハン・シン氏の在任期間中にも成長率が時折10%の大台に達することもあった。
インドの経済的成功物語は、モディ首相のトップとしての、メディア政治家としての印象でイメージが増幅されているという点である。それが特異な特徴とも言える。ショーマンシップを最優先に権力を行使してきた。インドの各地にモディ首相の顔写真が飾られている。強権的な国あるいは専制主義の国を除けば、民主的な国の中ではモディ首相の顔はどの国の指導者をよりも街中で目にすることができる。モディ首相の顔は国内だけでなく外交的にも広く拡散した。昨年9月のG20サミットにで彼は新興経済を代表して前向きな発展の道筋を示した。
インド経済はおおむね楽観視されている。今年度の成長率は7.3%と予想されている。経済実態に合わせてこの数字を低く見積もるもあるがどんなに最低の推定値でも4.5%はある。日本をはじめとする先進国病に悩む各国はもとより、好調なアメリカを越え、減速を続ける中国経済に抜かれることはないだろう。
モディ首相は国家権力を利用して経済改革を実行してきた。その多くは良い方向に、時には悪い方向に向かった。交通や輸送のインフラが寸断されている問題を解決するために、大胆な国土強靭化を打ち出し、時には行き過ぎた開発もあったが、国土の肉体改造は完了してみると歓迎すべき安堵感を与え、今も変化を続けている。福利厚生もより充実したものになった。
銀行取引と企業取引においてはデジタル化が進んだ。これはシン前政権時代に始まったがモディ政権が引き継いだ。生体認証識別システムである Aadhaarと、ソフトウェア。インド人はアメリカ人よりも高速かつ安価なピアツーピア取引にアクセスできる。
税金が見直された。日本の消費税にあたるGSTの州間格差解消し、物品・サービス税を制定することによってより多くの経済を公的部門に投入した。公的支出に資金が解放され、法人税率の引き下げにより民間資金の調達が可能になった。
2016年11月8日午後8時、モディ首相が突然、すべての高額紙幣が突然無価値になると宣言した。犯罪者から「ブラックマネー」を奪うことを目的としていた。経済活動に支障をきたしたが限定的でインドのキャッシュレス化が一気に進んだ。
インド経済の歪みと不平等はごく少数の起業家への富の集中である。2012年から2022年にかけて生み出された1兆4000億ドルの富のうち、80%が20社に渡ったとの推定もある。これらの企業は政府との結びつきが強い。
ゴータム・アダニは企業の富の集中とリスクを分かりやすい例として示した。インド国外では、2022年にイーロン・マスクに次ぐ世界で2番目に裕福な人物として突然リストに登場するまで、彼の名前を知る人はほとんどいなかった。アダニ氏の複合企業の主力株は、モディ氏が当選した翌年にほぼ2倍となり、2019年の再選後は8倍に成長した。アダニ・グループは事実上、政府の物流部門となり、港、高速道路、橋、太陽光発電施設をこれまでにないスピードで建設して行った。そのアダニ氏の帝国はニューヨークの空売り業者から詐欺容疑で告発され、アダニ氏に書類上で1500億ドルの損害を与えた。主張を否定したアダニ氏は失った金の大半を取り戻したが、少数のトップ層が巨大な影響力を蓄えられるというモディ政権の戦略のリスクを暴露した。
世界最大の人口を擁することが外国投資家がその消費者市場に惹かれる理由だが、内実を見るとインドの最近の成長は不快なほど不平等だ。インド人のほとんどは田舎に住んでおり、その75パーセントは栄養失調を防ぐための無料食料配給を受ける資格がある。その一方で、高級品の売り上げは、特にパンデミック以降急増しており、メルセデスのような高級車は資金はあっても購入ができない品薄状態になっている。
雇用も厳しい。インド人の約7パーセントが失業している。そのほかに多くの人が不完全雇用となっている。海外でより良い収入を得ようと、ウクライナで装備の整わないロシアの傭兵として戦ったり、イスラエルでの労働を停止させられたパレスチナ人が空いたポジションを埋めたりしながら、命を落としている。
インドはイギリスを抜いて世界第5位の経済大国となり、今後数年以内に日本とドイツを超えて世界第3位になると。より多くの多国籍企業がインドに集まりインド人が新規事業を始める機会は増える。生活水準が工場必死それが消費市場を拡大し都市から地方へと発展を拡大して行く。かつては許可申請に数年を要していたプロジェクトが、現在では2週間で完了できるようになった。
モディ首相は初めて首相になった2014年に「最小限の政府、最大限のガバナンス」を誓った。アメリカの金ぴか時代が再現されていく。この後日本型の成長を続けていくのか、それとも新たな経済発展の形を見つけていくのか。モディ経済の特徴はやれることはすべてやってみるというところだ。その多くで高い成功の打率を記録している。少なくとも大木な視点で見れば成長を続けていたことは確かでその傾向は今後も続く。
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