アフガニスタンはどこに向かうのか ②中国

タリバンによるアフガニスタンの再制圧を受け、関係国の動きが急速に進んでいる。アフガニスタンは力の空白が生まれやすい。アジアの内陸部で、19世紀にはイギリスとロシアが勢力を争った。20世紀は冷戦の米ソの争いの舞台となった。2400年前にはインドのアショカ王が現在のアフガニスタン東部を含む南アジアに仏教帝国を築いた。7世紀にイスラム化したが、インドのヒンドゥー教徒は生き残りパンジャブにはシク教が生まれた。今、イスラム主義組織タリバンが政権を掌握した。米国が撤退した後のこの国の行方を直接決めるのは中国でもロシアでもイランでもない。隣国のパキスタンとインドだ。二回目は中国。

#中国

パキスタンと友好関係にある中国はこの地域での勢力拡大の機会を狙っている。「一帯一路」を実現するにはこの地域で足場を固めることが不可欠だ。中国はアフガニスタンと地理的に遠く別の文明圏だと思われがちだが中国とパキスタンは国境を接している。カラコルム山脈にワハン回廊は細い山岳地地帯が北のタジキスタン、南のパキスタンに挟まれる形で続いている。

「一帯一路」「中国・パキスタン経済回廊(CPEC)」。中国がパキスタンと協力しながら米軍によって閉ざされていら未開のアフガニスタンのインフラ開発やエネルギー部門に入り込んでいくだろう。インドはこの輪に入ることはできない。

これまで中国はアフガニスタンへの関わりは大きくなかった。しかしアフガンに眠る鉱物資源は中国には大きな魅力だ。アフガニスタンには電気自動車(EV)用バッテリーに用いられるリチウムへの期待がある。これはクリーン・エネルギーを進める中国にとっては大事な点だ。アフガニスタンには銅やレアアース類など総額1兆ドルの鉱物資源が眠っているとされる。パキスタン、イラン、中央アジア諸国に連なる地域への影響拡大は米軍撤退のあとの空白を埋めるだけでよいので絶好の機会になっている。

中国には新疆ウイグル自治区がありイスラム勢力の東トルキスタン・イスラム運動(ETIM)がある。イスラム勢力がアフガニスタンとの結びつきを強めることは中国はあまりうれしく思わないだろう。中国から逃れた人々がアフガニスタン国内で活動を始めるかもしれないからだ。

このため中国はタリバンがどのような政府を作るのかに注目している。穏健なイスラム国家になるのか、過激主義やテロを生みだすことにならないのか、新疆と地域全体への影響は大きい。タリバンの復権が新疆ウイグル自治区のイスラム過激派を勢いづかせないよう心配しているのだろう。

王毅外相は今年7月、天津でタリバン幹部らと会談している。中国はタリバン政権への支援と引き換えに独立派組織「東トルキスタン・イスラム運動」(ETIME)を支援しないよう求めたものとみられている。一方のアフガニスタンはインフラやエネルギーを必要としており、中国はアフリカでビジネスチャンスを開いた実績がある。

しかし、中国の心配は他にもある。中国人殺害の自爆攻撃があった。8月14日、パキスタン北西部カイバル・パクトゥンクワ州でバス車列への自爆攻撃事件があり中国人技術者ら13人が死亡した。100キロ以上の爆発物を積んだ車が建設現場へ向かっていたバス車列に突っ込んだ。パキスタンはインドとアフガニスタンを非難し、犯行を謀議しアフガンで活動を依然続ける3人の身柄をパキスタンへ引き渡すようアフガニスタン政府に求めた。

パキスタンのクレシ外相は記者会見で、自爆攻撃はアフガン内のパキスタン・タリバーン運動(TTP)の仕業と疑われると主張。アフガンの情報機関「国家保安局」とインドの情報機関も犯行に賛同したとも述べた。

中国は巨大経済圏構想を進めるためにパキスタンとの経済協力関係を強め多数の中国人も送り込んで道路や鉄道の大規模事業を進めているが、アフガニスタンと国境を接するパキスタンのバルチスタン州では、イスラム強硬派勢力が中国人やその経済権益を襲う事件が起きている。中国にとってはやっかいな存在だ。

回廊の先にあるのは、多数のイスラム教徒を抱え、当局が深刻な人権抑圧で抑え込んできた新疆ウイグル自治区だ。中国はアフガニスタンの不安定化が新疆に悪影響を及ぼさないように懸念してきた。アフガニスタンがウイグル反体制派の拠点になるとやっかいだからだ。1996年に政権を掌握したタリバンは、ウイグル系の武装勢力を受け入れアフガにスタン各地で戦闘員の訓練を行うことを認めている。

中国はパキスタンの仲介でタリバン指導者だったオマル氏にも接触している。中国国内の問題に影響を及ぼさないようにくぎを刺している。

タリバン支配のアフガンがパキスタンにもたらすリスクは、中国にとってのテロの脅威増大と繋がっている。パキスタンでのテロが激化すれば、パキスタンで中国が進める大規模投資事業、中国・パキスタン経済回廊(CPEC)が危うくなり、パキスタン国内の中国人への直接的脅威になる。

TTP は、2012 年にパキスタン北西部で中国人旅行者を殺害、新疆でのウイグル族殺害への報復であるとする声明を出している。今年 4 月には、パキスタン南西部で高級ホテルでの爆弾テロ攻撃を起こし、標的は同日ホテルに滞在していた中国の★駐パ大使であったと見られている(事件の瞬間は不在)。

IS も、2017 年にパキスタン南西部で中国人留学生 2 人を誘拐、後に殺害した40。
一方、中国自身へのテロの脅威の増大も予想される。

2014 年に指導者バグダディが中国を米国やイスラエル、インドと並ぶ「ムスリム抑圧者」と位置付け、2017 年にはウイグル人戦闘員が新疆での中国の抑圧に報復を誓う映像を公開している。

中国は、アフガニスタンへの直接軍事介入で泥沼にはまったソ連、アメリカの轍は踏みたくないだろう。帝国の墓場。タリバンと一定の関係を築いてきたパキスタンと中国にとってタリバンが掌握したアフガニスタンはテロの脅威を増やしただけのものになっている。アルカイダに関しては、中国はタリバンを通じて攻撃を抑えようとするだろうが、タリバンにその能力はない。

クラブハウスで議論した。次はインド。