インド人がやってくる
新たな在留資格「特定技能」を新設する改正出入国管理法が4月1日から施行された。これまでインド人労働者の受け入れは限られてきたが、インド・日本双方でそれを変える環境の変化が起きている。人材不足が深刻な14業種を対象に、一定の技能と日本語能力のある外国人に日本での就労を認める。単純労働での外国人材活用に門戸を開く。初年度となる2019年度は最大で4万7550人、5年間で約34万5000人の外国人労働者の受け入れを見込んでいる。
新在留資格「特定技能」は2段階。「相当程度の知識または経験を要する技能」を持つ外国人に与える「1号」は、単純作業など比較的簡単な仕事に就く。最長5年の技能実習を修了するか、技能と日本語能力の試験に合格すれば取得できる。在留期間は通算5年で、家族の帯同は認めない。
1号は▽農業▽漁業▽飲食料品製造▽外食▽介護▽ビルクリーニング▽素材加工▽産業機械製造▽電気・電子情報関連産業▽建設▽造船・舶用工業▽自動車整備▽航空▽宿泊――の14業種で受け入れる。
さらに高度な試験に合格した人に与える「2号」の在留資格は1~3年ごとに更新ができ、更新時の審査を通過すれば更新回数に制限はなく配偶者や子どもなどの家族の帯同も可能。建設や造船などの業種で将来の導入を検討している。
政府は4月1日に法務省入国管理局を格上げした「出入国在留管理庁」を新設。外国人労働者の雇用や生活を支援し、悪質な仲介ブローカーの排除をめざしている。外国人労働者への法的保護を強め、これまでより働きやすい環境を整える。
人手不足などを背景に日本での外国人労働者は急増し、2014年に約79万人だった外国人労働者は、2017年に128万人と過去最高の水準に達している。ベトナム、中国、フィリピン、ネパールなどからの技能実習生や留学生のアルバイトによるもので、中国や東南アジアからの労働者の受け入れが進む一方、世界最大の労働者の送り出し国であるインドからの受け入れには大きな変化は見られない。在日インド人は約3万人でインド人の受け入れは進んでいない。
インド人労働者の受け入れが進まない理由は、日本で就労する魅力が乏しいからだ。インド人労働者の多くはUAE、サウジアラビア、オマーンなどの中東や、米国、英国、豪州、シンガポールといった英語圏で就労している。日本は低スキルの労働者の受け入れを原則認めておらず、インドには技能労働の制度の認定送り出し機関がほとんどない。
高度人材や留学生は、アメリカを中心に英語圏での就職・留学を希望し、日本では日本語能力が必要でハードルは高い。インド人が強い関心を持つ昇進制度も透明性がなく、日本独特の企業文化や、帯同する子どもの教育環境が整っていないことが足を遠ざける状況を生み出している。ネパールからの留学生や技能実習生が近年急増しているのとは対照的になっている。高度人材か低スキルなのかの違いが大きいが、インド国内にはネパールのような貧しく勤勉で異文化への適応能力が高い地域の人々も多い。日本での就労の機会があるという情報がいきわたっていないことが大きな原因になっている。
この先は、インド人労働者が日本を目指す例が増えてくるだろう。低スキル労働者については、2017年10月に締結された技能実習制度に関する日印間の協力覚書を受けて、認定送り出し機関が設置された。
介護分野では初めてとなるインドから日本への技能実習生2人が2019年3月ベンガルールを出発、関西空港に到着した。大阪市内の介護老人保健施設で、約3年間の実習に取り組んでいる。2人はいずれも20代の女性で、インド南部で看護師として約3年の勤務経験がある。ベンガルールにある人材派遣会社「ナビスヒューマンリソーシズ」で日本語や介護の研修を受けてきた。介護分野での技能実習生派遣は日印両政府が推進しており、今後さらに拡大するとみられている。 資源価格の低迷を受けた産油国でのの労働需要低迷も、日本就労の大きな要因になる。東京五輪や高齢化で人手不足が続く日本について、インドのメンドラ・プラダン技能開発・起業促進大臣は、今後30万人の実習生の派遣を目指すとしている。
高度人材については、欧米での移民受入厳格化を受け日本にチャンスがめぐってきている。米国では、高度な専門知識を有する労働者向けの査証である「H1-B」ビザの発給がトランプ政権発足後から抑制傾向にあり、2017年の発給数は前年を下回った。このうち7割強を占めるインド人向けは小幅増加しているものの、ビザ発給厳格化はインド人労働者に大きな影響を与えている。
日本企業での就労経験のあるインド人との新ビジネスやインド人訪日観光客の誘致も大きな可能性が広がる。インド人がやってくる、状態になるのは、そう遠い将来のことではない。
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