コロナ後世界の非接触【2】インドで禁止の中国動画アプリ
アメリカのトランプ大統領がティックトック)」のアメリカでの取引を禁じる大統領令を出したのは今年八月六日。米中の対立がアプリにまで広がったと注目した。ティックトックはインターネット上に短い動画クリップを投稿する映像アプリで、撮影した動画を簡単に編集し特殊効果を加えることができインドでも若者の間で急速に人気が高まっていた。投稿された動画の中には危険な行為を撮影したものなど不適切なものには注意喚起文が表示されることもあるが、アメリカが問題としたのは動画の内容ではない。情報の流出を問題視したのだ。
ポンペオ国務長官は「利用すれば、個人情報が中国共産党の手に渡りかねない」と発言。ムニューシン財務長官は、安全保障上の観点から外国企業による投資を審査する「対米外国投資委員会(CFIUS)」が調査しているとした。アメリカの陸軍、海軍、空軍、海兵隊と沿岸警備隊では去年の暮れから政府支給の携帯端末でのティックトックの使用が禁止されていたがそれを一般にも広げた形だ。
トランプ大統領の禁止命令と相前後して日本では自民党の議員連盟が利用制限に動いた。利用者の個人情報が中国政府に渡るおそれがあるとして法整備を政府に求めていく方針を示し、地方自治体レベルでも埼玉県などが広報活動などに使う予定だったティックトックの公式アカウントの利用を停止するなど警戒の動きが広がっている。
この中国アプリに早くから極めて厳しい姿勢で対処し、実際に禁止措置を取ってきたのがインドだ。二〇一九年四月、インド南部タミルナドゥ州の高等裁判所は、ティックトックがポルノを助長し青少年の精神の健全性を損なうとしてダウンロード禁止を命じた。そして六月二九日にはインド政府のIT省が国としてこの中国アプリの全面禁止を発表。ユーザーのデータが盗まれたり国外のサーバーに流出たりして、インドの主権やプライバシーが侵害される危険があることを懸念した。インド国内にはすでに二億人規模のユーザーがいた。禁止となったのはティックトックだけではない。アリババやテンセントなどの中国企業が提供するスマートフォン向けのあわせて五九のアプリが一斉に排除ということになった。さらにインドではスマホにインストールされている中国アプリを自動的に検知し削除する「リムーブ・チャイナ」と名のいうアプリの利用も急速に広がった。なぜインドがそれほどまでに強い警戒感を抱いたのか。このときインドと中国の国境地帯では両国の兵士が衝突する事態が起きていた。六月十五日、実効支配線をはさんで駐留する印中の双方の部隊の衝突、死者が出たのは四五年ぶりのことだった。インドと中国は二〇一七年のブータンでの国境紛争後もいわゆる「大人の関係」を崩さず本格的な衝突は避けてきていた。しかしインド側が国境地帯の係争地を直轄領とする措置を取ったことを契機に緊張が高まっていた。