コロナ後世界の非接触【3】オンライン薬局を狙うアマゾン

こうしたインドの中国ばなれと同時に起きたのが、アメリカからの動きだった。G(グーグル)、A(アマゾン)、F(フェイスブック)、A(アップル)に代表されるアメリカのデータ通信関連企業のインドへの進出が加速した。コロナ禍を契機に拡大する巨大なリモートビジネスの成長を見越したものだ。
グーグルのスンダー・ピチャイ最高経営責任者(CEO)は七月一三日、インドのモディ首相とオンラインで会談。インドのデジタル化を実現するために今後五~七年で約百億ドル(約一兆円)を投資すると表明した。グーグルが得意とする人工知能(AI)をインドの医療、教育、農業に活用していくという。また英語が中心だった検索サービスも現地の事情に合わせヒンディー語やタミル語など現地の多言語に対応させ、音声入力の機能を改善し、起業家も育成していくなど、インド側としては手放しで喜びたい提案だった。
インドが何を喜ぶのかをなぜピチャイが知っているのか。それはインドはピチャイの故郷だからだ。ピチャイが生まれたのはインド南部。タミル人の両親の家には、自動車も電話もなかったという。ピチャイはそこからインドの理科系の最難関の教育機関であるIIT・インド工科大学を経て、奨学金でスタンフォード大学に留学。グーグルに入社後は、インターネット閲覧ソフトや、スマートフォンで一気に拡大したアンドロイドOSの事業に関わり、入社十一年で最高経営責任者となった。途上国インドの何に伸び代があり、どこから手を付ければいいのかを一番よくわかっている人物だったのである。インドではグーグル傘下のユーチューブ(YouTube)市場も急速に拡大しフォロワーが一千万人を超えるチャンネルが次々に生まれている。
テレビの受像機の普及も遅れてきたインドでのネットの動画サービスも巨大な市場になっているである。
グーグルと同様にインドへの積極的な進出攻勢に出ているのがアマゾンだ。最高経営責任者(CEO)のジェフ・ベゾスは今年初めにインドを訪問し累計総額で六五億ドル(約七〇〇〇億円)の投資を表明、インドでの電子商取引(EC)事業拡大していく方針を強調した。アマゾンの世界最大のオフィスはアメリカではなくインド中南部テランガナ州の都市ハイデラバードにある。インド国内の研究拠点でクラウドや電子書籍、AIアシスタントなどの開発を進めているのだ。
電子商取引をめぐっては、インドでは「キラナ」と呼ばれる地元の中小の小売店がアメリカの企業進出に反対してきた経緯がある。インド政府は去年二月、外資企業のネット通販に対する規制を強化していた。商品の仕入れ先と独占契約を結ぶのを禁止していた。
しかし新型コロナウイルスに伴う都市封鎖でデリバリーサービスの需要が拡大。ネットで選んだ商品を注文者の代わりにキラナで購入して自宅まで届けるサービスや、レストランの食事を配達したり、農家から買い上げた野菜をレストランに卸したりするなど、さまざまなスタートアップ事業が注目されている。
アマゾンも今年一月にインドの小売チェーン「フューチャー・リテール」との協業を発表。インドの電子商取引市場では、アマゾンがウォルマート傘下のフリップカートと市場を争い、後述するフェイスブックがそれを追うなど進出競争が激化している。
「二一世紀はインドの時代になる」というベゾス。五年間で一〇〇〇万以上のインドの小規模小売業者が通販に参入できるようにすると強気の姿勢で、在庫管理やカタログ作成など小売業者にEコマースの方法を学べるトレーニングプログラムを提案するなどとして地元小売店との共栄、協業を呼びかける姿勢で臨んでいる。
特に注目されるのはオンライン薬局だ。新型コロナの感染を避けるため国民が外出を控えネット通販の需要が急増。スマートフォンやパソコンの画面越しに医師の診察を受けるオンライン診療と薬のネット販売と相乗効果が期待されている。
アメリカの調査会社フロスト&サリバンによると、インド医薬品の二〇一八年のネット通販市場は五億ドル強(約五三〇億円)だったが、二〇二二にはその七倍の約三六億ドルに増える見通しだという。
アマゾンはすでに配送地域を南部ベンガルールなどに限定して取り扱いを開始。処方箋が必要な医療用医薬品も扱っており利用者は処方箋の写真などを送付する仕組みだ。薬局を持たない外国企業がオンライン販売することへの抵抗もあるがアマゾンは積極的に事業を進めている。
当時はアメリカとイン貿易摩擦が表面化していた。アメリカはインドに対し大幅な貿易赤字をかかえていたために去年六月に新興国向けの関税を優遇する制度からインドを除外した。これに対しインドは米国産品二八品目の関税を引きあげ、米印の貿易対立に発展した。

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