危険なスパイス【インドの調理用粉末が鉛中毒のリスクをもたらす理由】

▷謎の病気

スパイスパウダーや車のバッテリーからの重金属への暴露が南アジアの子どもたちの健康に影響を与えている。2020年12月24日の報道。南インドの都市エルルで12月初旬に謎の病気が発生し500人以上が入院。ほとんどが子供。症状はてんかんに似ており、けいれんと嘔吐を伴い、目の灼熱感と意識喪失を伴う。医師は困惑。
 新型コロナの混乱で、塩素で洗浄された消毒剤や野菜が多すぎることが原因であるという説が広まった。アンドラプラデシュ州政府は、全インド医科大学(AIIMS)と国立環境工学研究所(NEERI)の予備調査結果に基づいて、水中の残留農薬が病気の「主な理由」であると発表。患者からの血液サンプルを研究。AIIMSは、地元の牛乳に高い重金属含有量があることも報告。NEERIは地表水中に危険なレベルの水銀を発見。

▷ターメリックから検出

 インドの鉛中毒は長年の公衆衛生問題。コルカタのKPC Medical College and Hospitalの生化学教授Ipsita Mazumdar博士は、2014年から食品粉末からの鉛中毒の影響を研究している。マズムダールは3か月にわたって、チリ、クミン、カレー粉、ガラムマサラ、チャットマサラなど、国内で最も人気のあるスパイスのいくつかをテストしました。彼女は52のターメリックのサンプルをテストし、ブランド化されパッケージ化された品種と、コルカタの露店で販売されているルースパウダーを評価。すべてに鉛を検出。原因は鉛の化合物で汚染された食品着色料。クロム酸鉛をターメリックに加えて金色を明るくし、酸化鉛を使用するとチリパウダーに豊かな赤い色合いを与えた。カレー粉、ガラムマサラ、チャットマサラなど、テストした他のスパイスには少量の鉛が含まれていたが、ターメリックやチリなどの高レベルではなかった。

▷子供の神経を損傷
 鉛曝露の悪影響は時間の経過とともに蓄積すること。スパイスは毎日、そしてインド全土で家庭で使用されている、自動車の排気ガス、鉛の塗料、家庭で使用されるパイプなど特定されている他の鉛汚染源とは異なり隠れた危険。鉛への曝露は有毒金属を吸収する5歳未満の子供に特に有害。
長期的な身体的、認知的、神経学的損傷を被る可能性がある。妊娠中の鉛曝露は、子供の成長と、見る、聞く、学ぶ能力にも影響を与える可能性がある。
 インドは年間推定3000万台の自動車を生産。鉛蓄電池は健康に大きな危険をもたらす。鉛中毒に関するインド最大の研究の1つは、1995年にジョージ財団(現在のシャンティバヴァン)によって実施された。研究の12歳未満の約半数は、世界保健機関が知能低下、行動障害、学習障害の症状を引き起こすと考えている血中鉛レベルの2倍だった。

▷輸入規制

 2016年には、過度な鉛含有量を理由に輸入ターメリックをリコールする動きもあった。FDA米食品医薬品局により輸入会社に、製品サンプルの鉛の値が高いことが知らされた後にリコールが開始された。Spices USA社によると、問題はこの製品が詰められたインドのプラント側にあるとされているが詳細はリンクを参照されたい。
 クロム酸鉛(II)(クロムさんなまり、PbCrO4)は鉛とクロムと酸素から成る無機化合物のひとつ。鉛化合物かつ六価クロム化合物であり、毒性がある。天然には紅鉛鉱として産出する。黄色の単斜晶系または淡黄色の斜方晶系の結晶で、顔料として用いられる場合などは黄鉛、クロムイエローとも呼ばれる。

 バングラデシュでも問題になっている。
 「鉛汚染による香辛料および香辛料製品の身体検査なしの拘留」FDAの2017年6月22日付けのインポートアラートの改訂。アラートがターメリックに固有のものから更新され、他のスパイスやスパイス製品が含まれるようになった。

▷ハンダも規制

 鉛中毒の歴史。古代ローマ時代は膨大な量の鉛が生産され、陶磁器の上薬、料理器具、配管などにも使われていたために、ローマ人には死産、奇形、脳障害といった鉛中毒が普通に見られたと言われていた。しかしこの件は現在では俗説扱いされている。

▷ベートーベンの中毒
 17世紀ごろから、ワインによる鉛中毒が論じられるようになってきたが、当時はワインを甘くする目的で、酢酸鉛が添加されていた。例えば、ワインを愛飲していたベートーヴェンの毛髪からは、後の調査によって通常の100倍近い量の鉛が検出されたことから、その晩年にほぼ耳が聴こえなくなってしまった原因として鉛中毒が有力視されている。
 鉛とスズの合金としてはんだが知られ、低融点などの利点を持つため、古くから金属同士の接合に多用されてきた。近年では鉛を含まない「鉛フリーはんだ」に置き換えられつつある。

 欧州連合 (EU) は、例外を除き、電気・電子製品への鉛の使用が原則として禁止。ガソリンのオクタン価向上及び吸排気バルブと周辺部品の保護にテトラエチル鉛 (C2H5)4Pb が添加されていたが、排気中に鉛が含まれてしまうことから汚染源となって問題視された。日本自動車工業会によると、およそ50か国で有鉛ガソリンの使用が認められており、今なお有鉛ガソリンの問題は終結していない。鉛は狩猟やクレー射撃に使われる散弾にも使われてきた。鉛散弾を打ち込まれて死んだ上で放置された動物や鳥の死体を食べた鳥獣が鉛中毒を引き起こすなどしたため(狩猟の場合)、威力は劣るが汚染の少ない鉄、銅散弾への切り替えが進められている。安価な鋳造のペンダント、メダル、バッジ、ネックレスなどのアクセサリーには、低融点・低価格であることから鉛を含む錫合金(ホワイトメタルと通称される)が用いられる場合がある。
 鉛は食物にもごく微量が含まれており、日常的に摂取されている。経口摂取が起きた場合には鉛の排泄が追いつかず体内に蓄積され、健康に悪影響をおよぼす。鉛の有機化合物(テトラエチル鉛など)は細胞膜を通して摂取されるため、容易に中毒症状を起こす。鉛はヘモグロビン合成を阻害する。急性中毒では嘔吐、腹痛、ショックなどを示し、慢性中毒では、初期症状として、疲労、睡眠不足、便秘、摂取量が増えるに連れ、腹痛、貧血、神経炎などが現れ、最悪の場合、脳変性症に至る。消化器症状、神経症状、貧血が認められることもある。注意欠陥・多動性障害 (ADHD) との関連も指摘されている。
 小児は成人よりも鉛を経口摂取した場合の消化管からの鉛の吸収率が良く、成人では経口摂取しても10%程度の吸収率であるのに対し、小児が経口摂取すると約50%が吸収される。漢方薬(珍氏降糖)、ダイビング用おもり、魚釣り用おもり、散弾・鉛銃弾遺残症、カーテンのおもり。白粉に鉛白が使用されていた時代には、日常的に多量の白粉を使用する役者などに鉛中毒が見られた。日本では1934年(昭和9年)に鉛を使用した白粉の製造が禁止された。

▷8億人の子ども被害

世界中で最大8億人の子どもが、水質・大気汚染が原因で鉛中毒になっていると警告する特別報告書を2020年7月30日、国連児童基金(ユニセフ、UNICEF)が発表した。報告書は、鉛中毒は「これまで知られていなかった甚大な」規模で子どもに影響を及ぼしていると指摘している。報告書によると、世界の子ども3人に1人が、強力な神経毒の鉛の血中濃度が、長期的な損傷を防ぐための緊急の処置を必要とするレベルにあると推定されるという。
 鉛中毒は圧倒的多数が南アジアで起きている。鉛汚染は、囲いのない炉、塗料、ガソリンなどを含むさまざまな発生源がある。多くの国で使用されている鉛配管でも、飲料水の供給で危険なレベルの鉛が生じる。報告書によると、鉛の主要な発生源は、リサイクルされず、廃棄処理が適切でない自動車用バッテリーだという。子どもの鉛中毒が最も多くみられる国々では2000年以降、路上の車両数が倍増している。富裕国の子どもはここ数年の間に血中鉛濃度が低下している一方、貧困国では鉛中毒の問題が大幅に拡大していることも明らかになった。

 
 昔から言われてきたことではあるがただ事ではない。
 食べるものに含まれているなら大変なことだ。

まとめ

▷謎の病気
▷ターメリックから検出
▷子供の神経を損傷
▷ハンダも規制
▷輸入規制
▷ベートーベンの中毒
▷8億人の子ども被害

 

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