♯疾風戦闘機

インド空軍のフランス製ラファール戦闘機の調達計画がインドの政治を揺るがしている。割高な価格と不透明な契約内容で、モディ政権とライセンス生産企業との癒着疑惑が浮上。野党やメディアが批判の声を強めている。ラファールの価格が政権交代で一気に跳ね上がったからだ。
 新型戦闘機調達計画は、国民会議派のシン政権の2007年に始まったもので、老朽化した戦闘機部隊を126機の新型機で更新するというものだった。欧米の航空機メーカーによる競争入札の結果、英BAE製のユーロファイター・タイフーンと仏ダッソー製のラファールに絞られ、2012年に、低価格を提示したダッソーが勝利した。その時点では、すぐに使用できる18機をフランスから輸入、残りはダッソーとインド国営企業のHALがインド国内で共同生産することになっていた。
 2016年1月にパリを訪問したモディ首相は、オランド大統領とラファール購入の覚書にサインし、すぐに36機を輸入し交換部品とミーティア・ミサイルを購入することになった。この際に1機当たりの価格は約270億円と跳ね上がり、当初の調達予算内では先行輸入分の36機しか購入できないことになった。また、ダッソーと協力して国内生産をする企業に、当初のHALではなく、「リライアンス・ディフェンス」が指名された。これについてオランド大統領がインド側の独断で進められたと発言。国民会議派はインド政府とダッソーとの間で贈収賄の疑いがあるとして最高裁に調査を依頼。モディ政権とリライアンス・ディフェンスの癒着がメディアで報じられる事態に発展したのだ。
 問題の背景にあるのは、戦闘機不足と、複数国にまたがる今のインドの調達体制になる。
(マッハの夢)
 インドも当初は、戦闘機の自国開発を目指してきた。
 インド神話に登場する風の精「マルート」の愛称で呼ばれるHF-24はヒンドスタン社が開発した超音速戦闘爆撃機で、1961年6月に初飛行した。1950年代にジェット戦闘機開発に乗り出したインドは、ドイツの設計者クルト・タンクを招き、マルートを開発。主翼は後退角の付いた低翼で、双発エンジンを後部胴体に配置。機首は金属の光沢があり胴体にはくびれがある。工場を見学に訪れたネルー首相が、機体のくびれが気になって質問したところ、クルト・タンクが「コカ・コーラ型の最新の設計です」と説明したといわれる。マルートは実戦配備され、1971年のバングラデシュ独立戦争で実戦投入され対地攻撃に威力を発揮した。しかし当時のインドの工業力は高くなく、計画したマッハ2の速度を実現できず、開発は期待通りの成果を上げることはできなかった。ソ連製の軍用機を購入・運用することになり、自国発は頓挫し主力戦闘機はソ連のミグ23になった。
 2007年には126機の中型多目的戦闘機を新規調達することを決定し(MMRCA、Medium Multi-Role Combat Aircraft計画)、米F-16、F/A-18E/F、露Su-30MKI、MiG-35、欧ユーロファイター、スウェーデングリペン、仏ラファールなどが検討された。インドは、ロシアのSu-57開発に資金協力しており、ロシア機の導入が有力視されていたが、最終候補にはユーロファイターとラファールの二種類が残った。2012年2月1日、ラファールが独占交渉入りした。しかしその後ラファールはライセンス生産の交渉難航から36機の輸入の予定にとどまり、2016年には戦闘機約150機のライセンス生産の選定を開始している。選定にはロッキード・マーティンのF-16やサーブのグリペンなどが応じている。

(ラファール)
 ラファールは、「疾風」。フランスが 2000年代に開発した戦闘機で、三角翼とカナード翼を備えている。 カナードは主翼の前方にある固定翼で鴨が飛ぶ姿に似ていることからフランス語のカナール (canard)の名で呼ばれる。空軍向けの二人が乗る複座機は 1999年末から引き渡しに入っている。全長 15.3m,全幅 10.9m,総重量 24.5t,最大速度マッハ 1.8,航続距離 2000km以上の主力戦闘機だ。
 西ヨーロッパ諸国での戦闘機共同開発計画は、フランスだけがCTOL型航空母艦を保有し、機体サイズのフランス案の採用を求め、自国産のエンジンに執着したため、1985年7月に共同開発計画から脱退、8月には自国単独での戦闘機開発を進めることを決定。独自開発されたのがラファールだ。イギリスのBAe社とドイツのMBB社が共同で欧州作戦機として開発されたのが、ユーロファイター タイフーンになる。
 もともと小さいことを求められたラファールは、小さい機体を求めるインドの要求に合致し、交渉相手も機密保持、整備部品調達も一国だけを相手にすればよいという利点もある。。インドは、MiG-21の後継となる多目的戦闘機として2012年1月31日に採用を決定。海外で最初の導入国となった。フランスはインドのほかにギリシアへの輸出している。

(多国籍部隊のインド空軍)
 インド空軍は、1500機以上の航空機を有し、機数ではアメリカ空軍やロシア空軍、中国空軍に次ぐ世界4位の規模の空軍である。経済成長や中国軍拡への対抗から装備の近代化に力を入れている。その装備は多国籍部隊となる。 インドは歴史的背景から、初期には旧宗主国イギリスをはじめとする欧州機、近年ではロシア機やフランス単独開発機、アメリカの技術をベースとした準国産機を多く導入している。
(ロシア)
 ロシアの開発したスホーイSu-30MKI約254機の調達を進めている。スホーイ30は、ロシアのスホーイはインドでライセンス生産されている。1986年にソビエト連邦でが防空軍向けの長距離迎撃機として開発を開始したもので、カナード翼と推力偏向ノズルを装備したSu-30M2が1997年7月1日、Su-27UB改造機が1998年3月23日にそれぞれ初飛行した。1998年6月15日にはインド軍関係者へ披露された。
 MiG-21は1964年以来946機が調達され、うち476機が事故で失われ、MiG-21にかわって現在主力になりつつあるのがSu-30MKIだ。
(欧州)
 主力攻撃機のジャギュアは約半世紀前に初飛行を実施した旧型の機体だが、新型エンジンへの換装や電子装備の導入などの積極的な近代化が行われている。ジャギュアは、イギリスとフランスが共同開発した,軽量,高性能の全天候攻撃機。
(テジャス)
 インドが現在開発を進めている国産の戦闘機はテジャスだ。
 テジャス(Tejas)は、サンスクリットで「火」を意味する名を持つインドの国産戦闘機。特徴は小さいことだ。全長13m台前半、ウィングスパン8m台前半とコンパクトで、複合材使用で重量の小さい。最高速度はマッハ1.7~1.8とされ、視野の広いグラスコックピットで、暗視ゴーグル対応照明が装備されている。2001年には初飛行を達成し、旧式のMiG-21の代替を予定している。1998年の核実験に対するアメリカの経済制裁で開発が難航してきたが、2015年には最初の機体が軍に引き渡されている。
 インドはマルート以降、国産ジェット戦闘機の開発をしてこなかったが、1985年にラジブ・ガンディー首相が、アメリカと協力して新型の戦闘機を開発することを発表。HAL・ヒンドゥスタン・エアロノーティクス、ADA・インド航空開発庁や、ロッキード・マーティン、ゼネラル・エレクトリック、フランスのスネクマなどが協力して開発した。しかし、テジャスの開発は核実験の実施により大きく遅れることになった。1998年の核実験の制裁としてアメリカがLCAの開発から撤退、エンジンの技術支援にきていたGEの社員も帰国し、機体制御システムの輸入ができなくなった。

 インド空軍の戦闘機戦力の増強は喫緊の課題となっている。中国とパキスタンの脅威対抗するには、戦闘機部隊の数が足りず、旧式の旧ソ連製MiG-21とMiG-27が2024年までに退役する予定で、戦闘機不足は時間との闘いになっている。インド空軍は、未使用のまま倉庫に眠っていたロシア製MiG-29を、最新型にアップグレードして組み立て配備される方針を打ち出した。インド空軍の戦闘機は、ロシア、フランス、イギリス製などの多国籍編成。日本は武器輸出解禁に伴いUS2飛行艇の輸出計画を進めている。インディラ・ガンジー国際空港に隣接したインド空軍博物館に過去使用したさまざまな機体を保管・展示している。インドの国際的立ち位置を感じ取ることができるのではないだろうか。

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