アフガニスタンを忘れない①

アメリカ軍の撤退が進む中、戦火はアフガニスタン全土に広がっている。政府が後ろ盾としてきた部隊がなくなればタリバンが巻き返しを図るのは自明のことだ。アフガニスタンでは、アメリカ軍が8月末までに完全撤退するとしており部隊の撤収が進んでいる。

反政府武装勢力タリバンは8月7日から9日にかけて北部の4つの州の州都を新たに制圧したと宣言した。タリバンは新たに北部クンドゥズ州、サレプル州、タハール州の3つの州都を制圧した。続いてサマンガン州の州都も制圧したとしている。政府軍も反撃し各地で激しい攻防が続き、アメリカ軍のB52戦略爆撃機が北部で空爆を行った。ウズベキスタンやタジキスタンとの国境に近い北部の要衝、マザリシャリフの周辺でも戦闘となった。

クンドゥーズ州の州都クンドゥーズ、タハール州タールカーン、サーレポル州サーレポルはわずか数時間で次々と占領された。クンドゥーズは首都カブールに近い。

アフガニスタンでは20年にわたり駐留していたアメリカ軍や外国部隊が撤退を開始。タリバンが力の空白となった地域に進攻を続けている。戦闘は西部ヘラート州ヘラートやカンダハール州カンダハール、南部ヘルマンド州ラシュガル・ガーでも激化。

クンドゥーズは人口27万人。鉱山資源が豊富なアフガニスタン北部の玄関口。タジキスタンと高速道路でつながっている。タジキスタン国境は、アフガニスタン産のアヘンやヘロインの密輸ルート。中央アジアから欧州につながる麻薬密輸ルート。AFP通信によると今年に入り、数千人の市民が家を追われた。北東部のアサダバードでは、多くの子連れの家族が学校に避難している。村にたくさん爆弾が落とされた。

アメリカ軍がタリバンの拠点への空爆を激化。タリバン戦闘員にも犠牲。空爆は病院や学校にも。第三者による確認が取れない非難の応酬。在アフガニスタン米大使館は声明で、「支配を強制しようとする行為は受け入れられない」とタリバンを非難。「タリバンは福祉や市民の権利を理不尽に踏みにじり人道危機を悪化させている(訳註)」

軍備の整った35万人の政府軍が占領された地域を奪還できるかどうか。ドーハで行われている和平交渉は行き詰まったまま。交渉が再開されると占領地域を拡大しようとする。英米政府が在留市民にアフガニスタン脱出を呼びかける。アフガニスタンは孤立し忘れ去られる。それが何を生んだのか20年前を思い起こさなけばならない。

アメリカのバイデン大統領がアメリカ最長の戦争終結宣言を行ったのが4月14日。9月11日同時多発テロ20年の節目までのアフガにスタンから撤退を発表した。外交的・人道的支援は継続するが軍事的な関与はしない。アフガニスタン戦争を5人目の大統領に引き継がないとバイデン氏。アフガニスタンのアシュラフ・ガニ大統領はツイッターで、14日にバイデン大統領と電話会談したとし「アメリカの決定を尊重し、アメリカのパートナーと協力してスムーズな移行を実現する」

北大西洋条約機構(NATO)主導の作戦には9600人強の兵士。アメリカは少なくとも2500人の兵士を駐留させてきた。軍人の中には親子2代で同じ戦争に参加している者もいる。サイバー攻撃の脅威や中国との緊張関係。目の前にある問題に注力しなければならない。そもそも何世代もかけて続けるつもりで始めたものではなかった。

バイデン氏が表明した米軍撤退計画は、ドナルド・トランプ前政権とタリバンとの和平合意に基づく、5月1日の完全撤退期限を先延ばしにするものだ。2020年2月の和平合意は、米軍とNATOの同盟国が14カ月以内に完全撤退するというものだった。ただし、タリバンが合意を履行することを条件としている。合意では、タリバンは支配下にある地域でアルカイダなどの過激派組織の活動を認めないことなどに同意。タリバンは外国の軍に対する攻撃を中止した。しかし、アフガニスタン政府との戦いは続けている。先月にはタリバン側が、撤退期限が守られなければ、国内に残る外国軍に対する敵対行為を再開すると警告した。

2001年10月にジョージ・W・ブッシュ大統領がアフガニスタン空爆開始を宣言した。2009年2月、アメリカは兵士1万7000人の増派を決定。2009年12月、オバマ米大統領は、駐留軍を3万人増員し計10万人に拡大すると決定する一方で2011年までに撤退を開始すると表明。2011年に米軍がパキスタンでビンラディン容疑者を殺害。2015年3月、アフガニスタンのアシュラフ・ガニ大統領の要請を受け、オバマ大統領が駐留軍の撤退延期を発表。2017年8月、トランプ大統領がタリバンの勢力拡大を受けた増派表明。2019年9月、アメリカとタリバンの和平交渉が決裂。2020年2月、交渉の末、アメリカとタリバンがドーハで合意に至る。アメリカは駐留軍撤退を約束した。

2009年1月、オバマ政権の副大統領に就任する直前のバイデン氏がカブールを訪問。夕食の席でカルザイ大統領に対し米政府の支援を失いかねないと警告。夕食は突然打ち切られたという。タリバンの政権を打倒後、強い軍事・人道支援を支持していた時期もあったというが、アフガン戦争はアメリカを泥沼に陥れ勝利は不可能かもしれない。バイデン氏は、大統領就任直前のオバマ氏に対しアフガンに増派すべき時ではないと警告。大統領の座に就いたバイデン氏は、軍事専門家や人道専門家の反対を押し切って全面的な撤退を進めている。アフガンで新たな内戦が勃発する可能性はあるが、国の将来を決めるのはアフガン自体。4月にイプソスが実施した調査によると、米国民の過半数はバイデン氏の決定を支持。ただ、米国がアフガンで目的を完遂したと答えた割合は28%にとどまり、43%は米軍が今撤退すればアルカイダを助けることになる、との見方を示した。

タリバンは、米同時多発攻撃を首謀した国際テロ組織・アルカイダの元指導者、ウサマ・ビンラディン容疑者を支援しており、米国の攻撃はそれに対する報復だった。2009年のアフガン訪問に同行したリンゼー・グラム上院議員(共和党)はアルカイダがアフガンで再び台頭し、米国を再度攻撃するための土台作りをする恐れを指摘。迅速な軍撤退はタリバンに行動の自由を与える恐れがある。トランプ氏の失敗はタリバンから何も見返りを引き出さずに撤退に合意したことだ。

中国軍とロシア軍による合同演習が中国内陸部で行われた。新型コロナウイルスの感染拡大以降、中国が国内で外国軍と合同演習を行うのは今回が初めて。中ロ双方ともに「テロ対策」を強調。アメリカ軍の撤退でアフガニスタン情勢が不安定化するなか、国境を接する中国や中央アジアに混乱が及ぶことを警戒している。

続く。

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