国家捜査局
半年前にインドの国家捜査局がインド南部でIS活動家を逮捕していた。首謀者のモハメド・ザハラン(別名ザハラン・ハシム)。自爆テロ・グループのメンバーは富裕層の若者たち。自爆犯の人数がスリランカ当局の発表で7人から9人に変更になった。8人の身元が判明していて、すべてスリランカ人で、ほとんどが富裕層。イギリスに留学した経験者もいる。バングラの事件を思い出さずにはいられない。スリランカ国防担当国務相が、NTJが2016年にバングラデシュでテロを実行したグループと繋がりがあると指摘したとの報道も出ている。
警察はNTJのメンバー160人のリストを入手し、60人以上を逮捕して調査に乗り出した。ただし、ロイターがスリランカ政府高官の情報として、逮捕者の1人はシリア人と報じた。「ミラト・イブラヒム協会」(Jammiyathul Millathu Ibrahim/JMI)という過激派組織の関与も浮上した。ISとの関連が指摘されるスリランカの国内組織。
テロ計画が察知された発端は、インド「国家捜査局」がインド南部で半年前にIS活動家を逮捕したことだった。国家捜査局は、2009年にインド国務省統括下に設置されたテロ対策専門の機関。
インド当局はインド国内でIS容疑者を逮捕し、容疑者はスリランカでNTJリーダーのザハラン・ハシムを訓練したことを供述していたと報じられている。ヒンズー紙は、インドの「国家捜査局」(NIA)が半年前にインド南部のタミルナドゥ州で逮捕したIS信奉者を尋問し、テロ事前情報を入手することになったと伝えている。
イスラム教徒の人口比率が低く、イスラム過激派のテロが少なかったスリランカで起きた。犯行声明に映っている8人のうちリーダー格の1人の男だけが素顔を晒している。モハメド・ザハラン。ISの旗の前で、ISの最高指導者アブ・バクル・バグダディに忠誠を誓う。モハメド・ザハランはアブ・ウバイダというゲリラ名を持つ。インドで逮捕されたISメンバーは、自分がスリランカでモハメド・ザハランを訓練したとしている。
弟のモハメド・カッシム・モハメド・リルワンは組織の徴兵を担う。バツルディン・モハメド・モヒディンです。モヒディンは元兵士。スリランカ側に伝えられたインド当局からの警告情報には、「インド大使館も標的」と言及されていた。
スリランカのキリスト教の教会やホテルで起きた同時爆破テロは、4月21日(日)現地時間の午前9時ごろ、最大都市コロンボにあるキングスベリー、シナモン・グランド、シャングリラの3つのホテルと、セント・アントニー教会、コロンボ郊外のザイオン教会、セント・セバスチャン教会の6か所で、ほぼ同時に爆発があった。
3つの教会では、教徒たちがイースター=復活祭の祈りをささげている最中だった。コロンボにある日本大使館では、日本人の被害の有無を確認していた。シリセナ大統領は、国民に向けてテレビ演説を行い、「背後に誰がいるのか、徹底的に調べる」と述べた。爆発はテロによるものだという認識を示した。事件に巻き込まれた女性は、地元テレビ局の取材に「祈りの最中だった。私の娘が。。。」と泣き崩れた。ベッドに横たわった男性は「急に音がして床に倒れ込んだ。周りの人も倒れていた。慌てて外に逃げた」と話す。
外務省から、爆発で日本人数人がけがをし1人は重傷だという情報が入る。
爆発のあった3つのホテルは5つ星の高級ホテルで、中心部に近い大通りに面していた。周辺には政府機関や観光名所が立ち並ぶ。3つのホテルは、現地在住の日本人が皆知っていて、出張や旅行の人も行くような場所だ。心配の雰囲気が広がる。
スリランカは多民族国家で、1980年代から、仏教徒が多いシンハラ人が主体の政府軍と、ヒンドゥー教徒が多いタミル人の間で内戦が続き、7万人以上が犠牲になった。内戦は2009年に終結し、政府が観光に力を入れ、2016年には、内戦終結の年の4倍の、年間4万人の日本人が訪れた。
スリランカの政府関係者は、事前にテロの情報が寄せられていたと明らかにした。6か所で同時に爆発させた事件は、複数の人物が十分に調整したものと見られる。内戦の影響と爆発物の関連も浮上する。事前のテロ情報で、警戒レベルを引き上げようとしたやさきに爆発が起きた。午後にもコロンボ市内と郊外で、新たに2回の爆発があった。コロンボ市内は厳重な警戒態勢が敷かれ、夜間外出禁止令が出された。路上では多くの兵士や警察官が警戒に当り、検問所で止められる。捜査当局はいずれも自爆テロで、周到に準備された計画的犯行だったという見方示した。
数時間後の別の2か所の爆発は、事件の捜査の過程で起きたと見られる。
日本人1人の死亡確認という政府関係者の情報が流れる。河野外相が記者団に「スリランカのテロで邦人が1人亡くなり、4人負傷していることが確認されている」と述べた。亡くなったのは、タカハシ・カオリという名前の女性で、現地に在住していて巻き込まれた。高橋香さんの夫もけがをして、手当てを受けていた。高橋さんとけがをした夫は、シャングリラホテルで朝食をとっていた。フェイスブックのページによると、高橋さんは4年前、家族でコロンボに移り住み、夫と4歳の娘、去年生まれたばかりの息子の4人で暮らしていた。
更に、出張中のKDDIの40代の男性社員と、スリランカ日本大使館の30代の男性職員がけがをした。大使館で滞在中の日本人、約770人にメールを送って安否を確認し、不要不急の外出を控えるよう呼びかけた。
捜査当局は、国内のイスラム過激派組織がキリスト教の教会などを狙ったテロを計画しているという情報をつかんでいた。国防省が全国の警察に警戒態勢を指示したが日付までは特定できていなかった。当局は事件との関連や、外国のテロ組織の関与などを捜査していた。捜査当局は、宿泊客を装った人物が、朝食の時間で混み合うホテルのレストランで自爆したため、犠牲者が増えたと指摘。24人を拘束した。
スリランカは治安や経済が良く、日本人の観光客がうなぎ登りに増え、大型連休も予約が入っていた。賃金水準が低く、質の高い従業員を雇いやすいため、約130社の日本企業が進出していた。事件を受け、大手ファスナーメーカーのYKKが工場の操業を停止するなど、経済にも影響が出た。
ロイター通信は目撃者の証言として、停車中の車に仕掛けられた爆発物を、軍の特殊部隊が処理中だったと伝えた。全土で不審物などの捜索が行われ、コロンボ中心部のバスターミナルで、87個の起爆装置が見つかっていると伝えられた。
スリランカの宗教は仏教徒が最多で、人口の70.1%を占める一方、イスラム教徒の割合は9.7%、ヒンズー教徒が12.6%、キリスト教徒は9.7%。スリランカのイスラム教徒は、国内で商売をしてきた人たちで、他の宗教と敵対関係にならないよう融和的に過ごしてきた。過激な人は少ない。警察が拘束した24人の多くはイスラム過激派の「ナショナル・タウヒード・ジャマート」という組織のメンバーだった。過激派組織IS、イスラミック・ステートに参加したスリランカ人が数十人いたという情報も流れた。スリランカ外務省は、死亡した人のうち、少なくとも31人が日本人1人を含む外国人だと発表し、フランスに本部があるICPO=国際刑事警察機構は、爆発物やテロ対策などの専門家チームを派遣した。
ナショナル・タウヒード・ジャマートは次第に過激化し、最近は中東に働きに出ていたスリランカ人が地元に戻って加わり、貧困層への勧誘も活発化させ、おととしには約2000人だったメンバーを急速に増やしていた。
リュックサックを背負った容疑者と見られる男が、ミサでごった返す教会に入って来る映像が流れる。スリランカの国防担当相が議会で、テロは、先月ニュージーランドでイスラム教の礼拝所が襲撃され、50人が死亡した銃乱射事件に対する報復で、イスラム過激派が起こしたという情報が入っていると発言した。
ISがインターネット上に声明を出し、一連のテロ事件の犯行を主張したとして、覆面をした男らが、指導者のバグダディ容疑者の名前を出して忠誠を誓う動画を掲載した。声明では、実行犯として7人の名前や役割分担などに言及し、「イースターのお祭りを祝う人たちを狙った」「2人の戦闘員が体に巻き付けた爆発物を爆発させた」などと、犯行の詳しい状況を記した。
スリランカ・イスラム評議会のヘミル・アフマド副会長が、ナショナル・タウヒード・ジャマートのリーダーはモールビー・ザヘラーン氏だと明かし、ザヘラーン氏が、日本や米国の国旗が燃える画面をバックに、「生きる権利があるのは、イスラムか、イスラムに対して税を払う人だけだ」と述べている動画を掲載した。ザヘラーン氏は、インド南部に居て、動画でスリランカ国内のメンバーに指示を出していると見られていた。捜査当局は、犯行の背後にISが関与していたという見方を強め、ISが公開した、実行犯らを映したとされる動画や写真の中で、唯一顔を隠していない男を、国内の過激派組織のリーダー格の男と断定した。