スマホ関税
日本政府はインドが輸入するスマホの関税を最高二〇%まで引き上げたのは、WTO・世界貿易機関のルールに違反している指摘した。インドの保護主義的な市場のもとになったのは、スワデシ、スワラジ運動。インドのメイク・イン・インディアの政策を進めるためには、輸入品に頼っている貿易構造を続けていくわけにはいかない。特に情報通信の分野ではハードの開発に力を入れている。経済産業省は、インド政府が産業や雇用を守るためとして、五年前の二〇一四年以降、輸入するスマホやその部品、基地局などの関税率を最高二〇%まで引き上げた。これらの製品はWTOのルールでは、関税をかけないことになっている。インドが日本企業から輸入している携帯電話などの製品は、年間およそ一五〇億円で、関税の引き上げによる影響、約二五億円になる。
背景にあるのは、アメリカ。トランプ米大統領は2019年3月、インドを一般特恵関税制度(GSP)対象国から除外する意向を明らかにした。現在、GSPを利用したインドからの輸入は56億ドル。「インドは公正かつ合理的な市場アクセスの提供を米国に対し保証していない」という、インドをも例外としないトランプ節。除外措置は、米通商代表部(USTR)は、議会やインド政府に通知し、60日以上経過後、大統領布告によって発効することになる。
米印両国間の通商関係は、インド政府が電子商取引(EC)の新たな規制を公表し、米アマゾン・ドット・コムや米ウォルマート傘下のフリップカートの事業に制限を課したことから悪化。インド政府は、クレジットカード大手のマスターカードやビザなど多国籍の決済サービス会社に対してインド国内へのデータ移管を強制するなどの政策も出してきた。インドでの決済サービスのデータは国内のみで保管することをカード会社に義務付けている。アメリカ側にいわせると、インドは米国の商取引に悪影響を与える貿易障壁を導入している、ということになる。アメリカの2017年の対インド貿易赤字は273億ドル、インドはGSPによる世界最大の恩恵国。途上国として特別扱いをしている場合ではなくなってきたという声も聞こえてくる。
ロス米商務長官は2019年5月7日、インドを訪問し、インドの新たな電子商取引(EC)規制は米国の今後の対インド投資に悪影響を及ぼす可能性があると指摘。WTOルールの下ではインドによる報復は適切とはされないだろう、インド側の報復をけん制。ロス長官は、米小売大手ウォルマートや米マスターカードといった米企業を差別していると批判。インドは多くの新規投資を失うことになるかわからないと警告した。
さらに背景にあるのは、インド国産スマホの中国勢の猛攻によって壊滅状態となったこと。インドは、中国市場に次ぐ世界第二の巨大スマホ市場だが、インド国内メーカーのスマホは振るわない。一方で、中国ブランドは韓国を追い抜き独占状態。携帯電話に大きな電池容量を重視したインドの「Micromax」当初は勢いのあったが、その後振るわず、小米(Xiaomi)などに押された。製品価格が安く、デザインも斬新、製造サプライチェーンも強固。ハードウェア設計からソフトウェア開発まで、専門家の層も厚い。中国ブランドの中でも、競争は激しい。楽視(LeEco)や金立(Gionee)は、長く続かず、中国モデルをそのまま売ろうとしたことが敗因と指摘される。インドは中国に次ぐ四・三億のユーザーを擁するとはいえ、ガラケーで十分というユーザーの厳しい目も考慮して、低価格高品質の戦いが続く。
高税率阻止の動きは、米中の貿易戦争が激しさを増している中でのものになる。。アメリカのトランプ政権は、中国との貿易交渉で歩み寄りが見られなかったとして、関税を新たに上乗せする手続きを始めた。通商法301条に基づいて知的財産権の侵害を理由にした関税の上乗せは中国からのすべての輸入品が対象になる。
一方で、インド人の技術者の雇用で注目を集めたフリマアプリ大手の「メルカリ」は、スマホ決済の還元費用などで、2019年3月までの9か月間の最終赤字が七三億円となった。新規に参入したスマホ決済の利用者の獲得に向けた費用がかさんだ。売り上げはフリマアプリの利用者が拡大で手数料が増加し、過去最高の三七三億円となったが、アメリカでのフリマアプリ事業で人件費や広告宣伝費が高くつき、日本で始めたスマホ決済の利用者を増やすためのポイント還元などの費用が膨らんだ。将来の成長のためにコストをかけて赤字する姿勢は強気だ。
インド発のスマホ決済も、日本で激しい競争の中にある。スマホ決済事業者が乱立する中、ソフトバンクは買い物額の還元を売りにした子会社の「PayPay」の資本を二倍に拡大すると発表した。ソフトバンクとヤフーが共同出資するPayPayは、赤字が膨らんでいるが、キャンペーンを続けていくための追加出資に必要な措置という判断。スマホ決済はいろいろなサービスの土台になっていくため激しい競争が続く。相当な覚悟での先行投資となる。スマホ決済はIT企業や金融機関などの参入で乱立状態。同様に還元キャンペーンを行った「LINE」も、ことし3月までの3か月間の最終赤字を103億円としている。