チェンナイ会談

チェンナイ2019。チェンナイの国際空港で、専用機から降りたつ習主席を空港で出迎えたのは、タミルナドゥ州発祥の古典舞踊のバラタナティヤム。足を外輪に開き、膝を折って腰から下がひし形のようになるポーズで、足首に鈴をたくさんつけ 歯切れのよいステップを踏み、指先、顔や目の動きでダイナミックに感情を表現する。チンジャラ、ジャラジャラとにぎやかなな中、タミルナドゥ州のプロヒト知事、パラニスワミ州首相らの歓迎を受け、インディアンダンスの列の前を五星紅旗を掲げた公用車がゆっくりと進む。
 2019年10月11日、インド南部タミルナドゥ州を訪問した習主席とモディ首相との「非公式」会談。「タミルナドゥは古代のシルクロードで海上交通の経由地だった」。習主席は、かつてのインドと中国の交易の歴史を強調した。米中の貿易紛争の過熱する中、「一帯一路」と距離を置くインドを少しでも引き寄せたい。モディ首相は「印中は重要な新興経済国だ」と応じ、6世紀以降に東西交易の拠点だったマハーバリプラムの寺院を案内した。白シャツ姿の二人は、暑い中を駆け回るエネルギッシュな経営者のように見える。
 武漢2018。両首脳は2018年、中国の武漢で会談。中印国境地帯で両国軍が対峙する事態を受けて関係の安定化を図った。武漢は毛沢東ゆかりの地。両首脳は、船上でお茶を飲み友好ムードを演出した。2018年4月28日、中国の習近平国家主席は、湖北省武漢市でインドのモディ首相と非公式に会談し関係強化で一致した。武漢は中国が進める現代版シルクロード経済圏構想「一帯一路」の要所の一つ。「一帯一路」建設でインドに協力を働きかけることで、対中国を念頭にインドとの連携強化に動く日米をけん制した。
 会談は、前の年に中国がブータンのドクラム地域で道路建設を開始し、ブータンの後ろ盾になっているインドが介入するし、小競り合いとなった関係を修復したものだ。1962年の中印国境紛争の原因ともなったヒマラヤの国境問題は、6月に中国がブータンのドクラム高原に道路を建設し始めたことに対抗し、8月にはブータンの擁護者であるインドが部隊を派遣、中印両軍がにらみ合った。
 武漢非公式首脳会談では、中印関係の適切な管理が、「アジアの世紀」の前提条件となることを確認した上で、国境問題の管理では、国境地帯での偶発事態を防ぐべく、両国軍間の信頼醸成や予測可能性を高めるための戦略的ガイダンスを設けた。2国間の貿易と投資を、均衡的で持続可能なやり方で前進させることで合意し、文化的、人的交流の促進も進めることになった。そして、気候変動、持続可能な発展、食料の安全、感染症との戦い、テロ対策などのグローバルな問題で両国は協力することになったという。
(大人の関係)チェンナイ会談は、それに続くもので、両国は貿易や投資などの分野で関係を深めることで一致した。中国がインドに近づくのには理由がある。中国はトランプ大統領が進める米中貿易戦争が主戦場になっている。その中で、巨額の貿易黒字が得ているインドとの関係強化は、背後の守りになる。インドと中国の貿易総額は過去最高の844.4億ドル。インド側の貿易赤字は517.5億ドルに膨らんでいる。
 しかし中国は、インドが求める原子力供給国グループ(NSG)への参加や、パキスタンに拠点を置くイスラム過激派のリーダー、マスード・アズハルのテロリスト指定に反対している。インドのアルナチャルプラデーシュ州の領有を主張し、パキスタンへの支援を続けている。モディ首相がジャム・カシミール州の自治権をはく奪したことを非難している。
 中印間緊張要因は、国境問題もあるが、中国の巨大経済圏「一帯一路」構想の影響が大きい。「一帯一路」のうち「一路」に当たる「海洋シルクロード」は、インド洋を舞台にしている。スリランカやモルディヴへの港湾建設は、中国のインド洋での海軍強化はインドに強い警戒感を与えている。「一帯一路」にはパキスタンが含まれ、カシミール地方をめぐって常に一触即発の状態にある中で、「一帯一路」の主要構成要素と位置づけられる「中国パキスタン経済回廊」がカシミール地方を通過する。インドが「一帯一路」に参加しないのは主権の問題があるからだ。武漢会談の直前の4月24日に北京で開催された上海協力機構外相理事会のコミュニケで、参加国中唯一インドは「一帯一路」への支持を表明しなかった。
 インドが中国の「一帯一路」に参加していないのは、経済主導で政治や安全保障の主権を脅かされるのを徹底して嫌っているのである。スリランカ、パキスタン、モルディブなど、インドの周辺地域への中国の進出が急速に進む中、本国のインドが近づきすきることには慎重にならざるを得ない。むしろ、アメリカ、日本、オーストラリアとの4カ国戦略対話をスタートさせ、けん制の道具に使っている。
 武漢での会談後の5月11日にはモディ首相が、親中派が政権の座についていたネパールを訪問して関係強化を図った。2019年のインド訪問では、中国の習主席が、ネパールを訪問した。「一帯一路」にはネパールも含まれている。両首脳は、来年は3回目のサミットを、中国で開くという。大人の関係の鍵は「継続」にある。 ###

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