≪Триумф≫

ロシアのS-400ミサイル防空システム「トリウムフ(大勝利)」がインドに導入される日が近い。アメリカは弾道ミサイル迎撃システム「THAAD」や防空ミサイル「パトリオット」の購入をするよう提案してきたがインドは首を縦に振らなかった。トルコも中国も同じ道を選択した。戦闘機ではフランスのラファールにお株を奪われた形のロシアだが、兵器提供の歴史はロシアにかなわない。進出競争の中のディールで、インドの軍備の多国籍化が進む。ロシアはミサイルと同時に原油の輸出も始める。イランから原油が調達できないインドにとって産油国との「同盟」は安全保障事項だ。
 S-400は同時多目標交戦能力を持つ超長距離地対空ミサイルシステム。地対空ミサイルシステム「トリウムフ」は、最大射程400キロ。最高速度4.8km/s。軍用機、弾道ミサイル、超音速標的など様々な飛行体の空からの攻撃手段を迎撃する。ロシアで運用されており、2018年2月2日、ロシアのヴォルゴグラード市での第二次世界大戦でのスターリングラードの戦いの75周年を記念式典の軍事パレードでもS-400ミサイル防空システムが披露された。2014年に契約した中国はS-400の最初の購入国となったのに続き、2016年6月、ベラルーシに無償で供給され、2018年6月、カタールが購入に意欲を示したことに対し、隣国で対立関係にあるサウジアラビアが反発しフランスが仲介に動いたこともある。2018年9月、アメリカはSu-35とS-400を購入した中国に対して対敵対者制裁措置法を発動した。2018年10月にインドがロシアからS-400を購入する契約を締結した。2019年7月、アメリカはトルコのS-400の購入を受けてF-35の売却とトルコ軍パイロットの訓練を凍結する制裁措置をとった。いわくつきの買い物だ。

「大勝利」の輸出はトップ会談で決まった。2018年10月印露首脳会談の枠内で地対空ミサイルS400、5基をインドに供給する合意が締結されていた。ロシアのS-400ミサイルのインドへの配送は2021年末までに開始になるとみられている。インドは2018年にS-400ミサイルの50億ドルの契約を締結し、警戒するアメリカとの綱引きが続いていた。すでに第1段階の納入金8億5千万ドル相当の支払いが終わっていると、インド日刊紙「エコノミック・タイムズ」が伝えている。

アメリカはインドに対しS-400導入を諦め、代わりに弾道ミサイル迎撃システム「THAAD」や防空ミサイル「パトリオット」を導入するよう求めてきた。「大勝利」は弾道も通常も航空機もすべて迎撃できる。ロシアのS-400は、最大600kmの索敵範囲を持ち、10個の目標と同時交戦できるとも言われている。インドにS-400を諦めさせる切り札としてアメリカはインド空海軍にステルス戦闘機「F-35 ライトニング II」を提供するのではないかとの観測も流れた。

インドがロシアに接近するのはパキスタンとの国境を守ることだけが理由ではない。インドはロシアの原油が欲しい。国営インド石油公社は、ロシアの石油大手ロスネフチと、2020年に最大200万トン、または1日当たり40,000バレル(bpd)の原油を購入するオプションを与える契約を締結した。こちらも輸入相手の多国籍化が進む。ロシアからの国の原油輸入は、輸送コストが中東からの供給に比べ不利だったが、中東情勢の緊張とアメリカによるイラン制裁で割りのよい買い物になっている。インドは世界第3位の石油消費国で輸入国。原油の需要の80%が輸入でそのほとんどが中東からのもの。2019年は、インドの原油輸入に対する中東のシェアが、2018年の65%から60%に縮小し、2015年以来の最低となった。印露は、ロシアの東部クラスタープロジェクト、北極圏でのインド投資も進めている。インドは石油の国内価格の安定化を期待する

 インドとロシアはアフリカと中東に原子力発電所を建設する協力も進めている。すでにロシアが進出しているエチオピアの名も取りざたされている。バングラデシュでのインドとロシアの共同原子力プロジェクトの成功がその背景にある。インドはロシアの原子力機関であるRosatomと協力して、バングラデシュのRooppurに2つの原子力発電所を建設し、プロジェクトは2023年までに130億ドルの費用で完了する予定。南インドのクダンクラムの原子力発電所はロシアの援助で建設されている。
 インドは、NSG・原子力サプライヤーグループ(核兵器の製造に使用される可能性のある核技術の悪用を防止しようとする48の原子力サプライヤー国)の非会員。インドがバングラでできる作業は、設置作業、人材トレーニングなどに限定されている。ロシアとの協力によってインドは原子力発電所建設の専門知識を得ることができた。民間原子力エネルギーにおけるパートナーシップの深化は印露関係をいままでにない次元へと引き上げている。

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