コロナ不況、ロックダウンで輸入激減のインドの「金」を調べてみました
インドといえば金。パンジャブ州の都市アムリトサルのシク教寺院は黄金寺院と呼ばれる。16世紀、シク教第4代教祖ラーム=ダスが建設を始め17世紀初頭に完成。「不死の池」を白大理石の回廊が中央の黄金寺院を取り囲む。
感染拡大で個人消費が落ち込み金の輸入も減っている。インドの金の輸入は、国内価格の高騰とロックダウンで、2020年3月は前年比の4分の1で6年半ぶりの最低水準となった。インドは、スイス、UAE、南アフリカ、オーストラリア、アメリカなど埋蔵量の多い国から金を輸入している。インドの金はどの宝石ともマッチする。エメラルド、ルビー、サファイア、スピネル、真珠などダイヤ以外のものはインドで産出する。純粋な金は魔除けとして力を持った。ムガル帝国皇帝アウラングゼーブ(在位1658-1707年)には宝石学に長けた側近が3人いたという。
途上国といわれた中国やインドが新興国となりコガネ持ちが増えると金の価格が上昇した。自分を飾る宝飾と、コインや地金として資産の両方の役割が魅力となった。インドでは、嫁入りの際に、親が宝飾品を持たせる。1990年代前半から2000年前半まで、横ばいだった金の価格が2003年ごろから2008年にかけて大きく上昇した。インドと中国の両国で1538トンで、世界全体の需要の35%を占める。インドでは普通預金口座を持つ人が少数派だった。
世界最大の金消費国であるインドでは22金(22K/カラット)が好まれる。純度100%の金が24金(純金)とは異なり、22金は金の含有率が22/24、つまり91.7%。18金ほど硬くなく宝飾品として加工しやすい。バングルやネックレスが祖母から母、母から娘へと受け継がれていく。婚姻の際にはマンガルスートラが夫から妻に贈られる。イアリングにも用いられる。持参金のダウリーとして新婦が持参する習慣もあり、ダウリは1961年に禁止されたが、金持参の風習は残る。
インド政府は2015年9月9日、ソブリン・ゴールド債(SGB)を導入した。インドは世界第2位の金の消費国。年間800ー1.000トンを輪入している。金の輸入は経常収支の赤字の要員にもなっている。世界の金の消費需要は3000-4000トン。中国とインドがその大半を占める。2012年に中国がインドを抜いて首位になったが今後また逆転するかもしれない。金輪入額を削減するため、インド政府は、関税や総輸入量規制を課してきた。それでも歯止めがかからない。ソブリン・ゴールド債は、金のグラムを単位とする仮想通貨のようなものだ。ルピー建てで金の相場が落ちた時などに中央銀行が価値を保証する。金の国ならではの「金本位制」にも見える。
2020年02月には3千トン超の金が発見されたと報じられ大きな話題になった。タイムズ・オブ・インディア紙が報じたもので、2つの金の鉱山から約3500トンの金の鉱石が発見されたという。ウッタルプラデシュ州東部のソンバドラ県の鉱山で発見された金の価格は約12兆ルピー(約18兆6千億円)とされる。インドの金の保有量626トンの5倍で、情報が正しければ、金の保有量第2位のドイツで3366トンを抜いて1位のアメリカの8133.5トンに次ぐ金大国になる。
ロイター通信によると、インドは2020年3月に25トンの金を輸入した。1年前の93.24トンから大きく減少。価格が急騰し需要が圧迫された。インドの金先物は、3月に10グラムあたり44,961ルピーという過去最高を記録した。
インド経済の減速の中で金の需要は落ち込んでいた。ワールド・ゴールド・カウンシル(WGC)は2019年11月5日、2019年のインドの金需要が3年ぶりの低水準に落ち込むとの見通しを示していた。アメリカの利下げなどで国際価格が高騰。ルピー安も重なった。農村地域の収入が減少し国内の金価格が過去最高値を付けていた。
金は高インフレや不安定な経済的状況に対するリスク回避能力が高い。インドでは金の宝飾品は変動価格で純金含有量に基づいた時価で販売されている。およそ30万店の金の宝飾品店、1万以上の精錬所、300万人以上の金細工職人などがある。世帯平均で64グラムの純金を所有、その90%が金の宝飾品だという。
資産を目に見える形で所有したいという欲求は貧困層で強くなる。貧しい身なりの少女も金の鼻輪をする。ただ足の指にはめる指輪のトーリングは作らない。神の象徴の金を人間の足に触れさせることはない。金のアンクレットやリングもない。金は神聖な存在だ。
銀行預金や貨幣循環を拡大し企業への貸付を進めようとしたインド政府は、通貨としての金の流通を制限しよう1968年の金制限法を設けた。金は取引が見えにくく税収には向いていなかった。14カラット以上の金宝飾品の製造、個人の金保有、ディーラーも金取引や2キロ以上の金保有が禁止となった。この金なし経済は20年以上続いたが、一部で密輸などブラックマーケットが成長した。
1990年の経済の自由化以降は、金制限法を撤廃し金の輸入量が増加していった。原油の輸入を金の輸入金額が上回り2012年インド政府は金の輸入関税を2%から10%に引き上げ、2013年80対20ルールを作って金を100トン輸入した場合20トンは宝飾品にして輸出しなければならないというルールも作った。先述したように関税だけでは金所有欲求を機能しなかった。2016年モディ首相はGold Monetiztion Schemeを作り、全国に金の純度のテストセンターを作り金の品質の向上が図られた。金の現物取引所創設も打ち出された。
インドは外から異民族が侵入し支配者も交代、政府が代われば貨幣の価値もなくなる。インフレも経験してきた。いざという時、土地を持って走れない。どんな状況でも金の価値は失われることはない。その教訓がインド人に染みついている。ディワリの初日はインド中の金宝飾店がにぎわう。
インド人が頼りにしてきた有事の金。それさえも封じ込めるロックダウン。新型肺炎はインドをどう変えていくのだろうか。