【映画案内】『ウイルス』(2019)はニパウイルスとの闘いを描いたものだがコロナの現実と重なる部分が多い。

救急医療の現場のシーンから始まるウイルスとの闘いの映画。近づきたくない存在として見られる医療従事者、感染経路の特定、ワクチンや治療法のない感染症、バイオテロとして政治家され混乱を深める。ウイルスの自然宿主との人間のかかわりも。コロナの現状と重ねあわせるととても尋常な心境で見られる映画ではない。インドという少し離れた国という距離をもってしてみてもやはりつらい。さらにインドでは感染が拡大しているというタイミングでの日本語字幕の公開。映画館の人数制限が緩和された日と重なった。咳をする人はいない。マスクの奥で唾をのむ音さえ聞こえてきそうな緊張感

 2018年のケララ州カリカットで原因不明の高熱と嘔吐で病院に運び込まれた患者が死亡する。た担当の看護師の女性が倒れる。インドでは未知の伝染病にパニックが広がる。1995年のアメリカ映画『アウトブレイク』も治療法が見つからないなか医師がウイルスに侵されていくメディカル・スリラーだった。『ウイルス』はケララで実際に起きたアウトブレーク。原因究明と感染拡大防止に努めた対策本部や現場の医療従事者が描かれる。現在進行形のものとしてしか見れない。映画としてみていいのか呵責を感じる。

 2018年8月ケララは大洪水に見舞われた。過去100年間で最悪の洪水で、「ネズミ熱」で12人死亡した。マラリア、デング熱、水ぼうそうの感染例も報告された。日本ではほとんど報じられなかったが、このモンスーンの豪雨災害では、およそ500人が死亡し100万人超が避難を強いられた。ケララ州北部でニパウイルスの流行が拡大して17人が死亡している。
 翌年の2019年6月にはニパウイルスの感染者が再び見つかった。感染者は40~75%の確率で死に至る。感染しても症状が出ないこともあれば、脳炎を引き起こしてさまざまな合併症を併発する場合もある。コウモリが媒介となることが多く、ブタなどの家畜も感染して人も感染する。感染者の自宅の井戸から発見されたコウモリが感染源だった可能性が指摘されいる。映画の中ではフルーツバットとされている。映画ではケララにウイルス研究所が設立されたことも最後に紹介されている。
 マレーシアで被害が確認されていたニパ・ウイルス感染症。マレーシアに駐在していた際には宿主とされるコウモリの洞窟を訪れた。SARSと鳥インフルエンザの感染拡大と取材していた時期だった。人間と自然のなわばりの境界線が見えなくなっていた。二つの縄張りの中間では、飼育されていた豚が処分され空になっていた。防護服を着て取材したがコウモリの足は素手で持った。
https://jibaku.info/archives/1038

 20年前にマレーシアで初めて確認されたニパウイルス感染症。そのインドでの広がりを題材に描いた『ウイルス』(2019)。インディアン・ムービー・ウィークで紹介された映画のうちの一本だが、あまりにタイムリーになった。監督はアーシク・アブ。マラヤラム語。出演、レーヴァティ(マルガリータで乾杯を!)、パールヴァティ(チャーリー)、クンチャーコー・ボーバン。音楽 スシン・シャーム。インタミッションを挟んでの150分。
 映画の脚本家ムーシンが監督のアーシクと協議していた時期にニパが発生していた。いとこや友人も医科大学の医師がいて、現実味のあるスクリプトや台詞がつくられた。それが緊張感を生んでいる。普通病棟に戻るという嘘を見抜き遺書を残す医療従事者。言外の意味をくみ取れるようしっかりみていないと物語の展開から落ちこぼれる。
 監督のアーシクは、ウイルスとの戦いで亡くなった28歳の英雄的な看護師リニ・プササリーを描くことにした。保健大臣も実在の人物をベースにする。アウトブレイクの翌年の公開は、日本だとちょっと無理だろう。描き方の主軸がとれない。関係者の了解。ドキュメンタリーとも異なる映像倫理など課題が多すぎる。
 『ウイルス』(2019)。撮影は、2019年1月から2月にかけて。カリカットの政府医科大学で行われた。2019年6月7日に世界中で公開され批評家から高い評価を受け興行収入も成功。ザカリヤ・モハメドという名の男性が感染。コジコーデにある公立医科大学に連れて行かれた。そこで未知のウイルスの症状に苦しみ数時間後に死亡。ザカリヤを治療した看護師アキラも感染。周辺で徐々に症例が確認され死者数が増加し始める。医療専門家が未知のウイルスがニパであることを確認。
 緊急事態でCKプラミーラ保健相とポールVアブラハムが率いる医療従事者と医療専門家のチームが危機に立ち向かう。生物兵器ではないことを証明する。科学者、医療専門家、病院スタッフ、ボランティア、前向きに戦った人々を敬意をもって描く。
 ケララ州での2018年ニパウイルスの発生。2018年5月23日、ケララ州保健局は、ケララ州の北部地区への旅行者に特に注意するように求める旅行勧告。2018年5月23日、ケララ州は、ニパウイルスの治療と薬について、マレーシア保健省に医学的助言を要請。2018年5月25日、アラブ首長国連邦の厚生労働省が状況が収まるまでケララへの不必要な旅行を延期し、果物や野菜を避けるよう勧告。2018年6月1日、ケララ州北部のタマラッセリー教区は教会に舌での聖体拝領の提供を中止し、宗教の授業を延期し、ウイルスが蔓延するまで結婚式や家族の集まりや不必要な旅行を避けるよう要請。
 医療現場の現実や未知の感染症に出会った人々の感情がわかりやすく描かれている。クラスターという言葉も用いられている。コロナの前に見ていれば医療リテラシーをかなり上げることができていたと思われる。ただ映画だから最後はウイルスとの闘いを終えた克服宣言を過去のものとして音楽で盛り上げていたが、日本、世界、インドのコロナの現状を考えると、ここはちっとも共感できなかった。

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