拝火
ゾロアスター教では、死体は悪魔の住処とされる。火を崇拝するゾロアスター教では、死体が火を穢すことになるため、火葬を行わない。死体は路傍に放置されハゲワシに食われるか、直射日光で乾燥して骨だけになった後にダフマと呼ばれる磨崖穴に入れられる曝葬が行われていた。イランより暑く湿度があるインドでは死体が乾燥する前に腐乱してしまうため、ダフマという鳥葬施設を利用する。そのうえを鳥が群れを作って旋回しているのを見たことがある。「沈黙の塔」と呼ばれるダフマで死体を鳥がついばむ。骨は太陽光にさらされ土に還る。骨だけになる時間が短いとよいとされる。
沈黙の塔は、大地を汚さないように地面よりも高く造られた石の床の上に死者を横たえる。円筒型の石積みの塔の床は斜面になっていて雨水や体液などを流し落とす為の溝もある。拝火教徒以外の出入りは禁じられており、外からはハゲタカが舞っているのしか見えない。 インドのパールシーはムンバイに集中している。日本では死体損壊罪として法的に禁じられているが、パールシーは鳥に死体を与えることは人生で最後の功徳だとしている。環境への負担も小さいという。ムンバイでは猛禽類が減少し本来は1日で分解される死体が数週間たっても残り、腐臭被害が問題となっている。オゾンや太陽の反射光、石灰とリンを使った分解促進策も取られているが、人工的な手法を用いることは本来の信仰に反するという問題もある。
クイーンのリードボーカルのフレディ・マーキュリーの両親は「パールシー」と呼ばれるインドに住むゾロアスター教徒である。ゾロアスター教はイラン生まれの善悪二元論を特徴とする宗教で、イランがイスラム化する中、ゾロアスター教徒がインドに逃れペルシア人を意味するパールシーと呼ばれるようになった。ヒンドゥー教が多数を占めるインドで、財閥タタなど経済的に力を持つようになった。指揮者のズービン・メータもパールシーだ。
フレディ・マーキュリーの両親はインドに住む拝火教・ゾロアスター教徒「パールシー」だった。映画ではフレディの父が信仰を貫くように息子をたしなめる。父がゾロアスター教の信仰実践の柱である「三徳」である「善を思い」、「善を語り」、「善を行う」を説くが、フレディはそれで何かが得られるのかと反発する。映画ではこの三徳が最後を飾る。エイズに侵された体でアフリカ難民救済のための「ライブ・エイド」に参加する。ゾロアスター教では同性愛は厳しく禁じられている。
『ボヘミアン・ラプソディ』はゴールデングローブ賞でドラマ作品賞、主演男優賞、米国アカデミー賞で主演男優賞、音響編集賞、録音賞、編集賞の4部門を受賞している。主演男優賞をとったラミ・マレックは、アラビア語の名前を持つエジプトからの移民の子で、フレディと同じように移民の子で宗教的なマイノリティーのキリスト教の一派であるコプト教徒。エチオピアのコプト絵画を描く裏千家への「移民」ギルマベラチョウさんを取材した。ふるさとは遠い。エジプト国内ではコプト教徒は少数派だが、ブトルス・ブトルス・ガリ元国連事務総長はエジプト外相も務めた。
フレディが生まれたアフリカのタンザニアの対岸の島ザンジバルは、アラビア半島南部のオマーンの統治のあとイギリスが保護下に置いた。イギリス人、オマーン人、インド人、アフリカ系の身分構造があった。フレディはインドで初等・中等教育を受け、その後ザンジバルに戻ったが、ザンジバルでアフリカ系住民による革命が発生し、一家はイギリスに移住した。ザンジバルには19世紀末に日本から娼婦が渡っていった。白石顕二の『ザンジバルの娘子軍』は「からゆきさん」を描く。###
ゾロアスター教徒って、面白い。もっと知りたい。