未公開の映画

未公開の映画が公開された。ムンバイを舞台に身分の違いを乗り越えて愛を育む男女を女性監督が描いた映画『あなたの名前を呼べたなら』(写真は広告サイトより)。インドでは未公開なのは、雇い主と使用人の恋なんて、インドではそもそも「ありえない」からだ。
 結婚4カ月で夫を亡くし、嫁ぎ先の農村からムンバイに出て来たラトナは、建設会社の御曹司アシュヴィンの邸宅の住み込みメイドに雇われる。ラトナは若くして結婚させられたあと、病弱だった夫がすぐに亡くなり、19歳で未亡人になった。アシュヴィンは親が決めた女性との結婚が、相手の浮気で破談になる。傷心のアシュビンを気遣いながら、メイドのラトナは広いマンションで家事を切り盛りする。アシュビンはデザイナーになりたいというラトナの自立の願いを叶えようと応援するが、身分格差が障害となっていく。ラトナは、古い慣習で、夫と死別後も嫁ぎ先の家に拘束される。アシュビンには親の期待がのしかかる。マンションという閉ざされた空間の何気ない日常を積み重ね、抑制のきいたインドらしい恋愛映画の中で、インドの社会が抱える矛盾が浮き彫りになる。
 カンヌ国際映画祭の批評家週間部門でプレミア上映し、優れた新人作品に与えられるGAN財団賞を受賞。欧米やアジア各地でも劇場公開を果たし、フランスではインド映画で歴代ベスト5の興行成績を記録した。ラトナ役は『モンスーン・ウェディング』で国際的に知られる演技派女優ティロタマ・ショーム。アシュヴィン役は『裁き』で人権派弁護士を演じたヴィヴェーク・ゴーンバル。フランス人撮影監督はフランス人のドミニク・コラン。
 この映画の話題の中心は女性監督。1973年、インド西部プネに生まれ、住み込みメイドや乳母がいる家庭に育った。大好きな乳母とは食事は別。インドの富裕層の結婚事情を追ったドキュメンタリー『What’s Love Got to Do with It?』を2013年に自主製作した。これは解説でも紹介した。映画が社会を映し出だす。男女格差、カースト格差、そんなものが客観視され、芸術や映画に反映される時代になった。因習や差別が根強く残るインド社会で自分らしい生き方を模索する姿は、監督自身とも重なる。ゲラ監督は、カリフォルニアのスタンフォード大学、ニューヨークのサラ・ローレンス大学(美術学修士号)を卒業。在学中にニューヨークのパラマウント・ピクチャーズでインターンとして映画製作の現場を経験。インド帰国後は大人気テレビシリーズで40以上のエピソードを担当するなど脚本家として活躍した。フランス人映画製作者の夫と娘とともにパリに住む。
 ヒンドゥー教徒の女性は未亡人になると衣服は基本的に白か青の無地、アクセサリーは付けずない。ラトナはムンバイに向かうバスの中で腕輪をはめ、帰途は腕輪をはずす。『Sir(旦那様)』という原題が『あなたの名前が呼べたなら』という邦題になった。

未公開の映画” に対して2件のコメントがあります。

  1. 匿名 より:

    bunkamuraで公開見てきました。松岡環さんの解説もあり満席御礼でした。

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