偽情報(original)

総選挙では大量のフェイクニュースが拡散している。無関係の動画を使って、与野党の支持者が陣営への支持を呼びかける。インド軍がパキスタンにあるテロリストの拠点を攻撃した瞬間だとされたのは、テレビゲームの1シーンを切り取ったものだ。「空爆で死亡したテロリストの遺体」の画像は、2015年のパキスタンの熱波による死者の埋葬の様子の写真。フェイスブックは不適切と判断した国民会議派を支持する600を超えるアカウントや投稿を削除したと発表。インド選挙管理委員会は、偽情報の対応に苦慮する。量が多すぎて打つ手がない。「人さらい」のフェイクニュースによって集団リンチが続発し、すでに20人以上が殺害された。
 ネット選挙の最前線はツイッターやフェイスブックではなく、メッセンジャーサービスの「ワッツアップ」(WhatsApp)になった。インドに行くと、ワッツアップでの連絡を必ずといっていいほど求められる。便利で先行の利益があるからだ。

 インドでは、携帯電話の通信アプリを通じ、「誘拐事件が発生した」という偽の情報が拡散し、犯人と勘違いされた人が暴行を受け、死亡する事件が相次いでいる。発端とされる動画は、バイクに乗った2人組が路上で遊んでいた子どもを抱きかかえ、そのまま逃走する様子を街頭の監視カメラが捉えたものとされていた。動画とともに、臓器売買目的の「人さらいギャング」数百人が入国したという偽情報をもとに、よそ者に気をつけろというメッセージがワッツアップで広まる。この動画は、実際の監視カメラの映像ではなく、2016年にパキスタン・カラチのNGO「ロシュニ・ヘルプライン」が児童誘拐対策のために制作会社に依頼してつくった啓発動画だった。バイクの2人組が子どもをさらった後、「パキスタン・カラチでは毎年3000人以上の子どもが行方不明。子どもから目を離すな」という啓発メッセージの部分がカットされている。
(ジャールカンド)ジャールカンド州では2017年5月、噂で暴徒化した住民の暴行で7人が殺害。4月に南部タミルナドゥ州ヴェールールで、人さらいとされた男性が地元住民に殺害される。5月9日にはタミルナドゥ州のティルヴァンナーマライで、自動車で旅行中に通りかかった家族連れが、地元の子どもにチョコレートをあげたところ、住民による集団リンチで65歳の女性が殺害された。
(グジャラート)2018年6月26日に、グジャラート州で、大勢の子供たちが誘拐される計画があるという偽情報が通信アプリ「ワッツアップ」で一気に拡散した。偽情報を信じて心配し興奮した市民が、メッセージ上で犯人とされた男の背格好や雰囲気に近い人を探し出し殴る蹴るの暴行を加えた。100人以上が加害者となった。女性1人が死亡した。
(アッサム州)北東部アッサム州でも2018年6月8日、子供を誘拐した男たちがいるという偽情報が広がった。偶然、道を尋ねただけの男性二人が、見慣れない人間だという理由から誘拐犯と間違われリンチを受けて死亡。乗っていた車から引きずり出され、群衆に暴行された。警察が駆け付けたときには2人は既に死亡していたという。YouTubeに投稿された動画には、ひどいあざだらけで血を流した男性らが必死で命乞いをする様子が映っていた。男性らは同じアッサム州の人間だと訴えたが、外部からの侵入者が安全を脅かしている偽情報に惑わされ、暴行は止まらなかった。二人は、グワハティ(Guwahati)在住の友人同士で、ピクニックからの帰り道だった。インドの警察当局は10日、15人を逮捕したと発表した。暴行現場を撮影して動画を投稿したのは逮捕されたグループのメンバー。児童誘拐犯がうろついているというメッセージがワッツアップ上で3,4日前から流れて警戒感が強まっていた。アッサム州のサルバナンダ・ソノワル(Sarbananda Sonowal)州首相は、深く苦悶していると表明。暴行罪で有罪となった者たちは厳罰に処すと宣言し、うわさを信じることのないよう強く求める」とツイッターへの投稿で呼び掛けた。
(タミルナドゥ)2018年の5月には南部タミルナド州で、子供にお菓子をあげた男性が誘拐犯と間違えられ、殺害された。
 SNSは、政党のメッセージを伝え、有権者と対話するチャンネルになる一方で、フェイクニュースやデマ拡散の温床にもなっている。2009年にサービスを開始したワッツアップは、LINEのようなチャット・通話アプリ。新興国や発展途上国を中心に世界中で約15億人の利用者がいる。 インドでは、スマホ普及やデータ通信の低価格化で、ワッツアップも約3億人が利用する。なぜワッツアップなのか、それはフェイスブックやツイッターと違って、見えない、からだ。掲示板ではないので、通信の秘密に保護されて、何を言っても言いたい放題。問題がその拡散のスピードが掲示板に引けを取らないことだ。反対情報もフィルターもなく、むしろ、尾ひれはひれがついて拡散する。宗教的対立は感情的になりこの拡散傾向に拍車をかける。
 ワッツアップはプライベートなメッセージをやり取りするので、公開の情報ではない。そのため、第三者がその内容や出所、拡散の規模を把握することが難しい。ファクトチェックも困難だ。心の中のつぶやきでは、何を思っても、たとえそれが暴力的なことであろうと、思想信条の自由は保障される。この個人のつぶやきと、公共の場の、境界があいまいになっているのだ。
 ワッツアップは、2014年2月19日に米Facebookが160億ドルで買収することを発表。追加の資金投入があり、2兆円規模の買収となった。
 ワッツアップには、無料でテキストや写真、動画を送信し、位置情報を共有するなどの機能がある。拡散能力はテキストのコピペだけではないのだ。メッセージを送信すると、灰色のチェックマークが1個、相手に届くとチェックマークがもう1個ついて2個になり、相手が読むと青色のチェックマークが2個になる。広告は載せない。
 米大手掲示板レディットからは拡散したフェイクのポルノ動画が拡散している。AIを使い、ポルノ動画の女優の顔を、ハリウッドの有名女優らに塗り替える。インドでは、このフェイクポルノの標的に、モディ政権批判を続けたイスラム教徒の女性ジャーナリストのラナ・アユーブ氏がなった。アユーブ氏には、インド人民党の支持者らからネット上で激しい攻撃が加えられていた。国連人権高等弁務官事務所は、インド政府に対し、ネット上のヘイト攻撃からアユーブ氏を保護するよう求める声明を発表した。
 偽情報は2018年5月以降に急増。被害者の写真だとして、無関係の子供の画像が添えられたり、子供向け防犯啓発ビデオの動画が、誘拐事件の瞬間として拡散したこともあった。
 事件の特徴は、農村部を中心に起きていることだ。新しいメディアの情報を信じてしまうメディアリテラシーの低さの問題が根底にある。それを加速しているのが、住民の警戒心と正義感だ。
暴力につながるメッセージを遮断し、虚偽の噂に惑わされない啓発キャンペーンが必要だ。
 ワッツアップは、外部から転送されてきたメッセージに「転送」のラベル表示開始。情報の出元が身内なのか、外部なのかの判別をしやすくする。同時転送を5件までと上限設定した。「フェイクニュース」という言葉は、2016年の米大統領選に絡み、民主党候補のヒラリー・クリントン氏を非難する内容の虚偽情報が、ソーシャルメディア上で氾濫したことを指していた。トランプ氏は大統領当選後、自らに批判的なCNNなどのメディアを攻撃する言葉としてこのフェイクニュースを用いた。攻撃や批判の言葉という以上に、インドでは、大規模に起きている現実で、人命や民主主義を脅かしている。

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