過石

インドが反撃に出た。アメリカが去年、インドなどに対して発動した鉄鋼製品などの輸入制限措置に対する報復として、インド政府はアメリカからの輸入農産物など28品目に新たな関税を上乗せする措置を発動した。インド政府は、アメリカのトランプ政権が、鉄鋼やアルミニウム製品に高い関税を課す輸入制限措置を去年3月に発動し、インドも輸入制限の対象国としたため、その報復として、アメリカからの農産物などに新たな関税を上乗せする措置を去年6月に発表していた。その発動期限は繰り返し延期されてきたが、アメリカ側が交渉中の2019年6月5日に、インドの市場は閉鎖的だなどとして、輸入品への関税を低くして優遇する対象国からインドを外したため、インド政府は交渉を中断し、2019年6月16日、関税を上乗せする措置の発動に踏み切った。
 新たな関税は、アメリカから輸入されるアーモンドや豆類といった農産物が主な対象。りんご、クルミ、ひよこ豆、リン酸など28品目に上乗せされる。インド財務省によると、アメリカの輸入制限措置によって、インドは年間およそ2億4100万ドルの被害を受ける。一方、インド側が発動した新たな関税で見込まれる追加税収は、2億1700万ドルになる見通しで、差し引きゼロの計算になる。
 米印貿易関係悪化のきっかけとなったのは、インドが電子商取引(EC)分野に新規定を導入し、アマゾンやウォルマート、マスターやVISAなどアメリカのクレジットカード決済サービス企業に対する規制を強めたことだ。
 トランプ政権の自国第一主義はインドに揺さぶりをかけている。トランプ政権は、アメリカ人の雇用を守るためインド人IT技術者の利用が多い「H-1B」就労ビザの発給の厳格化した。米中貿易摩擦をきっかけにした、米国の鉄鋼・アルミニウムの輸入追加関税導入は、経済協力でインドと中国を接近させている。
 対イラン経済制裁もインドにとっては厳しい踏み絵となっている。インドは原油消費量の約八〇パーセントを輸入に依存。イランは、イラク、サウジアラビアに続く輸入元。インドにとってイランは、対パキスタン、対中国戦略の上で要となる国だ。二〇一六年五月、モディ首相はイランを訪問し、インドがイラン沿岸部チャバハールの港湾開発の支援や、チャハバール港とアフガニスタンとを結ぶ鉄道敷設の支援を行う二国間の協定を結んだ。イランを支援しながら、インフラ開発支援でパキスタンを経由しないでアフガニスタンや、その先の中央アジへのアクセスルートを確保する狙いがある。これはパキスタン沿岸のグワダル港が中国によって軍事利用されることに対抗した措置ともいえる。二つの港の間は、一五〇キロしかない。港争いだ。グワダル港は中国・パキスタン経済回廊(CPEC)の起点で、インド側は中国の潜水艦のインド洋での活動を警戒している。
 トランプ政権は前オバマ政権のレガシーとも言われるイランとの核合意からの離脱を発表し、イランへの経済制裁を復活させイランとの原油取引がある国に対し、イラン産原油を輸入しないように求めた。インドがイランと石油の取引を断ち、投資も行わないとなると、イランとインドとの関係が冷え込むことになる。
 インドとアメリカの間では、鉄鋼、アルミニウムへの追加関税も大きな問題だ。インフラ整備や自動車販売数の増加で、インド国内での鉄鋼とアルミニウムは需要が増加している。インドの鉄鋼生産量は日本を抜いて中国に次ぐ世界第二位となった。JSW スチールやヒンダルコ・インダストリーズなど、鉄鋼とアルミニウムはインドの主要産業となっている。その市場は、アメリカだ。アメリカは、巨額の貿易赤字や知的財産権をめぐって対立している中国を対象とした措置として、2018 年 3 月から、鉄鋼、アルミニウムの貿易相手国に対してそれぞれ 25%、10%の追加関税を課すことを決定した。
 追加関税はインド企業にとって負担となるためアメリカ現地生産を拡大する企業もある。2018 年 6 月、印製鉄大手の JSW スチールは、米国・オハイオ州で最大5億ドルの投資計画を発表した。インドが自国の産業を守るために自由貿易を主張する時代になってきたのだ。
 周辺国との貿易を活性化するため中国は、2018年6月、インドを含むアジア太平洋貿易協定 (APTA)17への加盟国からの鉄鋼やアルミ、靴、衣類など幅広い分野の輸入品の関税の引き下げを行った。インドの製薬会社の中国市場進出の動きも続いている。アメリカはTPPを離脱。アジア・アフリカ地域の安定と成長を目指す「自由で開か れたインド太平洋戦略」を日本とともに進めているが、インドは中国に配慮し中立の立場をとっている。
 アメリカらインドへの対外直接投資(FDI)は、インド への投資の租税回避地となっているモーリシャスやシンガポール、キプロスを除けば、日本、英国、オランダに次いで4番目に多い。
 米ウォルマートは2018 年 5 月、印ネット通販最大手フリップカートを 160 億 ドル(約 1 兆 7,000 億円)で買収すると発表し、米 IT 大手のネットフリックスは、インドで 1 億人の新規会員獲得を目指しインド 向けのコンテンツを投入していくとしている。中国に次ぐ巨大なインド 市場での米国企業によるビジネス拡大の流れは当面は続く。
 ネットフリックスはインドを舞台とした初めてのオリジナルドラマ”Sacred Games”を公開 した。 しかし、ウォ ルマートによるフリップカート買収では、個人商店主らで作る全インド小売業連合が、日本の公正取引委員会に当たるインド競争委員会に対し異議を申し立てた。
 モディ政権にとって、対米関係を重視して 買収を承認するか、買収を差し止めてインド国内での支持固めを優先するか注目される。
 リン酸は、作物の成長に必要な肥料。インドでは、リン酸を多く含んだ輸入肥料が広く使われている。リン酸肥料の過リン酸石灰は「過石」と呼ばれる灰褐色の粉末。状の物質。1840年、化学肥料の父、リービッヒが骨の主成分のリン酸カルシウム Ca3(PO4)2に硫酸を作用させ肥料とした。総リン酸肥料の生産はアメリカが世界一。消費は、中国に続いてインドが世界二位。ナッツを作るには必要。

###

過石” に対して2件のコメントがあります。

  1. 匿名 より:

    トランプ対モディ

  2. 匿名 より:

    農業の根幹

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。


このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください

前の記事

ロシア

次の記事

三昧