なぜ自宅で失敗せずに無料ヨガが始められるの?【心と体を繋ぐインド式8つの方法をまとめて期間限定公開】
なぜ自宅で失敗せずに無料ヨガが始められるの?
本場インドのヨガは、一体どのようなものなのか。インドに行って聞いてきた。
教えを乞うたのは、ヨガの専門団体イーシャ基金の代表のサドゥグル氏。長い白髪がもつれ合って仙人のようになった顔の奥から、一瞬凍ってしまうような視線を発する不思議な雰囲気を持つ。髭がぼうぼう生えているので老人なのか、若いのか見た目でわからない。対面しただけで強いオーラに押されそうな「仙人」だが、勇気を出して聞いてみた。
「WHAT IS YOGA?(ヨガとは何ですか)」
答えは意外なものだった。
「体を曲げたり逆立ちをしたり息を止めたりするのがヨガではありません。ヨガとはユニオン、『繋がる』という意味です。命をバラバラのものではなくひとつのものととらえ、肉体的な制限を超えて自分自身を体験すること。これは哲学ではなく、現実です。樹木が排出したものを我々は呼吸しています。我々がはき出したものを樹木は吸っている。常に相互作用があるのです」
この仙人によると、ヨガの本質は、ココロとカラダをひとつにするということのようだ。自分と世界とが呼吸でつながることができるなら、これほど包摂的で、グローバルなツールは他にない。「仙人」によると、ヨガは宗教とも違うという。
「宗教というと、誰かが言ったり何かに書かれたものを信仰したりすることになりますが、ヨガは知りたいと思い続け、求め続けることで、結論はありません。高みに達することさえできれば、何をしていてもヨガをしていることになるのです」
インドでは青空の下、屋外の公園でヨガをする人をよく見かける。ヨガの魅力は、人と競争したり、勝ち負けがついて回ったりしないところだという。
「精神性と身体的な面のつながりを自分で感じるのが面白い」「一週間の間に良いことや悪いこととかいろいろあるが、ヨガをやっている間はすべてを忘れ、そのあとは気持ちも体もすっきりする」など評判は上々だ。
IT関係の仕事をしている男性は、「仕事でストレスが溜まりますが、ストレスを生んでいるのは仕事ではありません。ストレスを作っているのは自分です。対人関係も妻や子どもとの関係もヨガでずいぶん変わりました」と話していた。
ヨガとは「不思議なもの」だ。そもそも「もの」なのかどうかもわからない。
ヨガをすることは、ヨガに「参加する」という。参加した後に、明らかに違いのある一定の時間と空間であるということはいえそうだ。その四次元のいとなみの中に、何が含まれているのか。それを自分で決められるのがヨガらしい。
ヨガにはインドでもいくつか流派があるが、その代表的な流派における重要なことは、パタンジャリという人物が「ヨーガ・スートラ」という本で体系化したといわれる。実習法としては、八つの要素から成っているとされるのが一般的だ。大まかなイメージを紹介しよう。
① 制戒 ヤマ 節制、やってはいけないことをしない
② 内制 ニヤマ 内面の浄化、足るを知る
③ 座法 アサナ 体位、正しい姿勢
④ 調息 プラーナーヤーマ 呼吸法
⑤ 制感 プラティヤーハラ 感覚のコントロール
⑥ 総持 ダラナ 集中力
⑦ 禅定 ディヤーナ 瞑想、日本語の「禅」
⑧ 三昧 サマーディ 悟りの境地
このうち⑧の悟りの境地は、日本語でも「さんまい」といわれている。こうして見てくると、ヨガもやはり、答えそのものは示されておらず、「答えに至るまでの手順を示したもの」に見える。つまり、インド式数学と同じように、長い年月の間に洗練され淘汰されてきたインド伝統のソフトウエアなのだろう。
モディ首相は、二〇一四年、首相就任後初の国連演説で、「国際ヨガの日」を制定するよう呼びかけた。ヨガは古代の伝統からのかけがえのない贈り物で、心身を統合し、自分と世界や、自然との調和の感覚を自覚できる。生活様式を変えることで気候変動対策にも寄与すると訴えた。その三カ月後に内閣の改造を行い、ヨガ省を新設した。モディ首相自身、毎朝、健康維持のため体操を行っていて、ヨガのポーズをとる姿もインターネットで公開している。
インドでは、食生活が欧米化し、自動車の普及による運動不足が深刻な問題となっている。糖尿病の患者は七二〇〇万人と、中国に次いで世界で二番目に多く、モディ首相は、貧困世帯などの推定5億人を対象に、年間五十万ルピー(日本円で約八十万円)を上限として、病院の医療費を無料とする保健制度の「モディケア」を導入するとしている。ヨガでよい体調を維持できて医療費も低く抑えられる、ヨガの広がりがインドを世界に近づけると、その魅力を首相自らアピールする。各国でヨガの指導者を育成したり、ヨガを通して文化交流をする「ヨガ外交」も活発化させている。モディ首相の呼びかけに応じて、国連は、毎年六月二十一日を「国際ヨガの日」とした。
アメリカのハーバード大学教授のジョセフ・ナイは、文化や政策の魅力などに共感を得る力を、国家が軍事力や経済力といった「ハードパワー」とは異なる、国の「ソフトパワー」と呼んだ。伝統の価値を見直し、インドは独自の文化を世界に広く発信している。ヨガは、コンピュータのソフトウエアとはまだ別の、インドのもうひとつのソフトパワーなのだ。(続く)