ロックダウン、インド全土封鎖による外出禁止で注目は通販ビジネスの巨大市場なのか
強権の発動は政治史を変える。ただ歴史の経験との違いは感染拡大防止という大義があることだ。ずっと家の中に閉じ込められていてはストレスもたまるし、減速する経済への打撃も甚大で世界経済への影響も多い。ただ待てよ、インドはもともと地産地消の生活様式でインド式サバイバルの知恵に日本が学ぶところも多い。
新型コロナウイルスの感染が世界的に拡大する中、インドは現地時間25日から3週間の全国的なロックダウンに入った。モディ首相は2020年3月24日のテレビ演説で「専門家の助言によれば、ウイルス感染サイクルを破るには21日間が極めて重要だ」と述べた。「当面外出という行為を忘れてほしい」とという。インド政府は、感染者数が急に増え始めたことを受け、医療予算に19億7000万ドル(約2200億円)を追加で割り当てた。インドの新型コロナ感染者数は519人、死者は10人。すべての航空便の運航停止、鉄道の運行停止、企業と学校の閉鎖も明らかにされている。コカ・コーラもインドでの製造を停止した。
全土封鎖となったため影響は甚大だ。在インドの邦人の方々が苦労されているという情報も伝わってくる。日本人へのビザ発給が止まり、帰国するとインドに戻れない可能性があるからと残っていた人も多いのだが、外出することさえできない状態になった。影響は深刻だ。在外の日本人対策はしっかりとってほしい。
一方で、リスクの中で商機を見出す動きもある。アマゾンの進出については別稿で書いた。インドの流通は地下取引が多い。そこに変化をもたらそうとしているのが、ネット通販とソーシャルメディアを組み合わせたビジネス。スタートアップビジネスがインドで活況を呈している。2015年に創業したShop101は、個人で事業を始める人向けのオンライン店舗のアプリを運営。商品の注文から決済の支援まで、ワッツアップやフェイスブックともリンクして10万人以上の業者が利用しているという。ベンチャーキャピタルやユニリーバなどから多額の資金も集めている。地方言語にも対応したビデオ通販アプリSimSimにも投資が集まる。中国スマホ大手の小米(シャオミ)創業者、雷軍氏が率いる順為資本もインドのソーシャルコマース企業に出資している。
ロックダウンという強権の発動は政治的な意味も大きい。非常事態宣言はネルー・ガンディー以降のインドの民主主義の流れを変えた。1974年4月にはインフレ、汚職、失業、教育制度の不備などに対する民衆の抗議活動が盛り上がり、5月には国民的人気の回復を狙って地下核実験を行い国際的な批判を集めた。政権批判が全国的な大衆運動として盛り上がりインディラは1975年6月、非常事態宣言を行い、言論・集会・結社の自由を大幅に制限、新聞・雑誌・テレビに対する事前検閲を実施。大衆運動の指導者や野党指導者を反政府活動を先導したとして逮捕した。非常事態宣言は77年まで続き都市のイスラム教徒の低所得者層のスラムを強制的に撤去したり、農村の貧困を断つためとして強制断種による人口削減策も強行した。危機対処の強権政治は裏目に出て、30年続いたインドの国民会議派政権が初めて中断した。現在のインド人民党政権はその流れの延長上にある。
この危機を乗り越えるためひとつの鍵はインドの地産地消の流通だろう。人々は広い国土に離れて暮らしてきた。しかし、モスクやヒンドゥー寺院には人は集まる。神が危機を救ってくれると信じる人も少なくない。都市化も進んだ。インドを経由した感染症の世界的な広がりも注目される。政治の上でも大きな転換点になっている。